実績あるアーキテクチャーを採用

 特許庁は、システムアーキテクチャーの面でも開発の難易度を引き下げた。

 かつてプロジェクトが失敗した要因の一つに、採用したアーキテクチャーの難易度が高かったことがあった。「XMLで全ての業務を管理する」という理想を掲げる一方、実績ある開発手法も、開発ツールもなかった。現場の業務プロセスも、このアーキテクチャーに合わせて書き換える必要があった。

 特許庁は今回、既に開発ツールや開発の方法論が存在し、特定ベンダーに偏らないアーキテクチャーの採用にこだわった。

 この結果、2015年3月までに固まったのが、SOA(サービス指向アーキテクチャー)に基づき、BPM(ビジネスプロセス管理)ツールを中核に構成したアーキテクチャーである。設計補助はNTTデータが担当した。

 同庁が採用を検討するアーキテクチャーは、データベース層からUI層までの6層からなる(図4)。システムの中核を構成するのが、BPMS(ビジネスプロセス管理システム)やBRMS(ビジネスルール管理システム)といったBPMツール群だ。

図4●6層からなる新システムのアーキテクチャー
図4●6層からなる新システムのアーキテクチャー
BPMツール(BPMS/BRMS)を主軸にシステムを構築する
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 出願受付や審査、登録に至る業務プロセスを、ビジネスプロセス記述の国際標準である「BPMN 2.0」で記述。これをBPMツールに入力することで、同庁の業務プロセスに基づくシステムを構築できるようにする。法改正などで業務の流れが変わっても、BPMNで記述した業務プロセスを改訂すれば即座にシステムに反映できる。特許庁は今後、業務を可視化したUMLを、BPMN 2.0に置き換える作業を始める考えだ。

 BPMツールは日本ではポピュラーな存在とはいえないが、カシオ計算機やリクルートで採用実績がある。海外では、米国防総省が業務プロセス可視化の標準としてBPMNを採用し、業務改革に生かしている。

 これらの実績があるとはいえ、BPMツールを大規模システムに導入する難易度は低くない。特許庁の複雑な業務にBPMツールを適用できるかが、システム刷新の成否のカギを握ることになりそうだ。「特許庁の業務には、BPMNには落とし込めない例外処理もある。BPMツールが使える処理、使えない処理を見極めながら設計する」(特許庁CIOの木原氏)。

長官をトップとする推進体制

 過去の失敗の反省から長官をトップとするオール特許庁のプロジェクト推進体制と、民間有識者による監査体制を採ったのもこれまでの特許庁の方針とは違う。

 特許庁はプロジェクト再開に当たり、特許庁長官を本部長、特許庁CIO(特許技監)を本部長代理とする「特許庁情報化推進本部」を設置した(図5)。この組織が、情報システムの設計に当たって経営判断レベルの意思決定を担うほか、必要な予算・人員の確保、進捗報告の評価といった機能を持つ。

図5●特許庁のプロジェクト推進体制
図5●特許庁のプロジェクト推進体制
特許庁長官をトップに、オール特許庁でプロジェクトに挑む(写真左上:陶山 勉)
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 実際のプロジェクト管理は特許庁PMOが担う。情報システム室、総務課、外部の専門家など約20人強(専任7人)で構成する。加えて「外部の目」として、民間有識者からなる技術検証委員会が進捗を監査する。

 過去のプロジェクトではアクセンチュアに委託していたベンダー管理業務は、今回は特許庁自らが担当する。各サブシステムの開発に参加する複数のITベンダーをとりまとめ、それらのサブシステムを接続、統合する作業を、特許庁の責任で実施する。「特許庁CIO補佐官の体制を拡充するなど、外部専門家の力を借りながら、特許庁として統合をやり切る」(木原氏)考えだ。

 過去のプロジェクトでは、約100人を擁する情報システム室のうち、刷新に参加していたのは20人ほど、多い時期でも40人ほど。残りの職員は現行システムの運用に専念しており、両チーム間のやり取りは少なかった。今回のプロジェクトでは、新システムと現行システムとが混在することから、情報システム室職員の大半が刷新に関わることになる。

 特許庁長官をトップとする意思決定組織、外部の専門家を加えたプロジェクト管理体制、第三者による監査と、プロジェクト推進に必要な体制はそろった。あまりに手痛い過去の失敗を教訓に、特許庁は8年がかりのシステム刷新に挑む。

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