船舶の世界で大きな変化が起きようとしている──。安部取締役は航海気象の予報が転換期を迎えていると指摘する。鍵を握るのは、船舶から集まる観測ビッグデータだ。
海水温や気圧といった観測データが船舶からリアルタイムに近い状態で届けられる時代が到来し、気象予報の常識が変わった。今までは海上の観測データは極端に少なかったが、「船舶から入手できる観測データが増えて“ビッグ”になり、ここ3年ほどで状況が激変した」。安部取締役は興奮気味にこう話す。
世界には今、外航船舶が約2万隻ある。そのうちの約6000隻に、ウェザーニューズは航海気象の情報サービスを提供している。
これは見方を変えれば、海上に気象の観測基地を6000カ所も抱えているようなものだ。これらの船舶からは1日1回、観測データを収集している。さらに一部の船舶がブロードバンドで結ばれ始め、1時間に1回、海上の気象や船舶のデータを取れるようになった。報告の頻度が一気に24倍に増えたのだ。
船舶は海上を常に動いているので、1日1回のデータ収集では広い海の気象状態をカバーしきれない。だがリアルタイムで観測できれば、話は別だ。「地球が今、どうなっているのかが分かるようになる」と安部取締役は話す。本社にある航海気象チームの大型モニターには、船舶1隻1隻が世界地図上に表示されている。そこから常時、観測ビッグデータが上がってくるわけだ。
船が「動く観測基地」になる
海上の気象の“空白”を船舶が埋めてくれる。すると地球の今を正しく知ることができるので「予報も正しくなる」。予報に必要な“初期値”が正確になれば、気象や波の高さ、海流の予測も精度が高まる。
この初期値の高度化を、ウェザーニューズは「T-zero Revolution」と呼ぶ。T-zeroとは初期値のことだ。独自開発した航海気象システムに入力する初期値の精度が高まれば、予報に革命が起きる。南の海上で発生する台風や、海上を移動する前線といった自然現象の予報に、画期的な変化をもたらす可能性を秘める。
船舶のブロードバンド接続は、船会社にとっても利点が大きい。ウェザーニューズは船会社に対し、航海中の気象条件に燃費効率や時間(納期や定時・定刻)などを加味した最適なルートやスピードを推奨するOSRサービスを提供し、成長の柱に据えている。その評価は高く、契約数は右肩上がりで伸びている。2014年11月時点では6000隻のうち、2350隻がOSRサービスを使う。
当面の目標は、OSRサービスの契約数を1万隻まで拡大することだ。日本を含むアジア各国と北米の間の荷動きが活発になっているなど、船舶市場の盛り上がりがOSRサービスの需要を押し上げている。