千葉県の幕張にあるウェザーニューズの本社。同社は今、「気象ビッグデータ」の拡大で成長を続けている。2015年5月期の中間決算は前年同期比で増収増益。通期でも売上高が137億円、営業利益は35億円と、同じく増収増益を見込む。

 ウェザーニューズの存在が際立つのは天候が崩れたときだ。2014年を振り返ると、まさに大荒れの1年だった。冬の大雪に始まり、夏のゲリラ雷雨、秋の台風と自然災害が頻発した。ウェザーニューズの出番である。

 同社には「気象は眠らない」という言葉がある。約670人の社員は日米欧の世界3極体制で24時間365日、決して眠ることがない気象と向き合う。上記のような自然災害が発生したときは、全社一丸となって対応するのが原則だ。

 安部大介取締役運営主責任者は「大荒れの天気のときに活躍できなければ、当社の存在意義を問われる」と説明する。

 大雪や台風の可能性が高まると、ウェザーニューズのオフィスは一気に緊張感が高まる。なかでも、人命や財産に影響を及ぼすほどの気象状況を示す基準「M3」が発令されると、慌ただしさはピークを迎える。2014年10月12~14日に大型の台風19号が日本列島を縦断した際は、オフィスの入り口にはM3を示す「赤ロープ」が掲げられた(右写真)。その前週、10月5~6日にも台風が直撃してM3が出たばかり。2週連続で社員の疲労も抜け切らないまま、台風を見守った。

 2014年は2月に2度の大雪と7~10月に4つの台風接近があり、さらに12月の爆弾低気圧と、合計7回も赤ロープが出た。そのたびに大型モニターが並ぶ部屋に社員が集まってミーティングを開催。今後の対応を全員で議論し、その場で情報を共有した。

 オフィスの中心には米国から取り寄せたという巨大なテーブル型のモニターも置かれている(下写真)。ここに台風の進路予報などを映し出す。関係者全員がテーブルを囲んで、意見を交わす。

 「このまま台風が進むと、3連休明けの14日朝には都心を直撃するな。通勤時間帯に電車が止まるかもしれない」。台風19号のときは、そんな会話が数日前から飛び交った。

“感測”が巨大データを生む

 ウェザーニューズにおける気象予報の特徴は「サポーター」と呼ばれる一般の参加者からの“感測”情報を気象ビッグデータとして独自の予報システムに取り込み、役立てていることだ。スマートフォンや携帯電話から画像付きで情報を送ってくれるウェザーリポーターの数は、約780万人に達する。

 それらの「感測データ」と、独自のインフラや気象庁や世界の気象機関から提供される「観測データ」を融合。「観測+感測」による新しい気象予報スタイルを世界に先駆けて確立した。これは「人は最高のセンサー」であることを物語っている。

 それまで気象予報といえば、アメダスに代表される高価な観測機器でデータを収集し、それをスーパーコンピュータで解析して導くのが“常識”だった。気象予報は専門性が高く、素人が入り込む余地はないと思われてきた。ところがウェザーニューズがサポーターからのネット投稿を地道に蓄積し始めると、想定をはるかに超えるきめ細かな気象ビッグデータが集まることが分かった。

 例えば、昨年2月の大雪では初めて、詳細な路面の積雪状況を感測できた。積雪量を測る装置は全国に数えるほどしかなく、それまでは「平野部で○cm、山沿いで△cm」といった大まかな数値だった。それがサポーターの参加で、路面の積雪をピンポイントに表現できた。

 雪なら「ウッスラ」「シッカリ」「ドッサリ」、雨なら「ポツポツ」「パラパラ」「ザーザー」といった具合に、感覚的な表現の選択肢がサポーターのスマホや携帯電話に表示される。そこから選んで位置情報と一緒に投稿するだけ。それでも件数が集まって“ビッグ”になれば、予報に使える精度にまで高まるのだ。

2014年10月12~14日には台風19号が日本列島を縦断。3連休中も関係者全員がモニターの前に連日集合し、ミーティングを続けた
2014年10月12~14日には台風19号が日本列島を縦断。3連休中も関係者全員がモニターの前に連日集合し、ミーティングを続けた

 この仕組みを活用したのが、第3回で紹介するゲリラ雷雨予報である。2014年は前年より1000回以上も多い3219回のゲリラ雷雨が発生したが、サポーターの志願者で構成する「ゲリラ雷雨防衛隊」が約5万6000人も集まり、予報期間の2カ月半に合計49万通もの報告が上がった。おかげで、全国平均で56分前にはゲリラ雷雨のお知らせを通知できるシステムを構築できた。個人の有料会員は246万人に及ぶ。

 法人向けの気象サービスに目を向けると、こちらも気象ビッグデータの恩恵を受ける。なかでも航海気象が業績を牽引している。

 ウェザーニューズは現在、船会社向けの「OSR(最適船舶ルーティング)サービス」の拡大に注力する。船舶市場の好調な荷動きを背景に、海上の隻数が増加。船舶から集まる海上の気象ビッグデータが航海気象の予報に革命を起こそうとしている。次回から詳しく紹介する。