2015年7月28日に開催された「ITインフラSummit 2015 夏」の講演のうち、データ基盤に関するユーザーの取り組み事例として、楽天証券の講演と、データ基盤に関わるソリューションベンダーとしてネットアップによる講演の詳細を報告する。

ユーザー講演:楽天証券
クラウド時代のデータ基盤作り、ボトルネックは旧来型のデータ構造

楽天証券 常務執行役員 情報システム本部長 平山 忍 氏
楽天証券 常務執行役員 情報システム本部長 平山 忍 氏

 データ基盤分野の特別講演では、楽天証券のCIOに相当する立場にある平山忍氏が登壇。インターネット証券におけるクラウド利用の現状と、求められる要件などを解説した。平山氏は、同社でクラウド化を積極的に推進するとともに、クラウドに最適なデータ基盤の強化に取り組んでいる。

 クラウド上のサービスの多くはオンプレミスのシステムと連携する。そのためクラウド化にあたっては、オンプレミス側のデータ基盤の性能や安定性も重要になる。そこで同社は、取引データを管理するDBサーバーの強化や、FX(外国為替証拠金取引)のシステム向けに高速な分散型データ基盤を構築するなどの強化を急いでいる。

 平山氏はまず、最近のネット証券会社のシステムの全体像を示し、データ連係モデルがますます複雑になっていると述べた。そうしたなか、同社では業務システムを順次クラウド上に移行させているという。

 現状では、口座開設サーバー、帳票データベースや顧客データベース、事務処理サーバー、マーケティングデータベース、監視サーバー、OMS(注文執行システム)など、同社の大半のシステムはオンプレミスで稼働しており、クラウドを使っているのは、メールデータベースやCRMなど一部に過ぎない。

 基幹データベースをさらに、オンプレミス向けとクラウド向けに整理することで、現在オンプレミスで稼働するシステムの多くをクラウド上に移行できる。だが、ここで「クラウドを前提に作られていない旧来型のデータ基盤がボトルネックになる」(平山氏)という問題が立ちはだかる。

 新たなデータ基盤を作るうえで考慮せざるを得ない要素として、平山氏は開発生産性の問題を挙げた。「国内のIT生産力は当然ながら減少する方向にある。業容の拡大や縮小に合わせ、生産性を調整する能力が必須になる。IT生産性は今の2倍にする必要がある」とした。

クラウド対応データ基盤で目指すこととコスト管理

 続けて、平山氏は同社におけるクラウド対応データ基盤で実現を目指す事柄を列挙した。その1つめは、台頭する個人向け投資顧問業者(RIA、Registered Investment Advisor)向けツールの実装である。市況や商品情報の提供、取引申込の受付、営業日報、営業情報管理、法定帳票の作成・管理といった機能が必要になる。その多くが、リアルタイムのデータ処理を前提とする。

 2つめは、顧客情報の一元管理である。ネット、RIA、コールセンターを介して同社と取引する顧客のすべてについて、通話記録、営業履歴、メールやお知らせ、郵送物、そして顧客属性を一元的に管理する必要がある。

3つめは、帳票クラウドである。上記のすべての顧客について、電子交付、郵送物、顧客属性といった情報を管理できるようにする。

 4つめはバッチ処理の改革だ。同社には、約定計算、顧客勘定更新のほか、市場・決済機関との接続、財務会計処理、法定帳票の作成と管理など多岐にわたるバッチ処理があるが、これらを顧客口座単位で処理し、さらに処理を多重化する必要がある。

 5つめが、伝票処理やデータの転記、価格やレートのチェックといった単純事務作業の「ロボ化」(自動化)である。データ作業環境にクラウドを利用したり、業務フローを標準化することが必要になる。

 そして最後はコストデザインである。ここで平山氏は、同社のITに関わる減価償却費や業務委託費、ネットワークのリース費用、保守費用、人件費、センター家賃、光熱費といったコストの概要を示した。これらの合計であるIT経費は近年徐々に増加しており、業務拡大と営業利益目標の達成の両立が求められていると述べた。そのためにはやはり、IT生産性のコントロールが肝要だとした。

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