日本将棋連盟は2016年7月、デジタルマーケティング領域でのメディアの開発・運営で、シンクロ社と業務提携を結び、連盟のWebサイトを2016年秋にリニューアルすると明らかにした。この提携で日本将棋連盟の立場で関わったのが、2009年から連盟のモバイル編集長を務め、2014年からプロデューサーとして将棋界全体のIT化にも携わる遠山雄亮五段である。
遠山五段は1979年生まれの36歳。年間40前後の対局に臨む、現役のプロ棋士である。その一方で「シンギュラリティ」という言葉を当たり前のように使う棋界きってのIT通だ。
その遠山五段に、「業界でデジタル化を推進する達人」としてモバイル化やメディアの使い分け、そして人工知能(AI)との付き合いなどをテーマに話を聞いた。後で知ったことだが、取材日は遠山五段の対局日翌日だった。
モバイル編集長という役職を担って7年。遠山五段は現在、ネットを使った対局サービス「将棋倶楽部24」と、名人戦などのタイトル戦をスマートフォンなどから観戦できる中継サービス「日本将棋連盟ライブ中継」を担当している。
では、将棋界はネット対局やモバイル化にどのように向き合ってきたのだろう。
将棋は本来、駒を並べ将棋盤をはさんで向かい合って戦うもの。それが電車に乗っていてもモバイルで対局できる状況を、日本将棋連盟のプロ棋士たちは問題なく受け入れられたのでしょうか。
遠山:将棋倶楽部24ができたのは1996年。それからネット対局が一般的になりました。私は当時プロ入り前の16歳でしたが、ネット対局には抵抗はありませんでした。
因果関係ははっきり分かっていませんが、この時期に街中の「将棋道場」が減ったという言い方をされました。
意外かもしれませんが、将棋界には柔軟で新しいことをすんなり受け入れる土壌があります。いつでもどこでも対局できるモバイル化の広がりについてもそれほどの抵抗感は見えませんでした。
将棋界ではモバイル対応のほうがWebサイトよりも先行しているように見えます。
遠山:私がモバイル編集長という肩書きをもらった当時、「これからはモバイル」というアドバイスを受け、限られたリソースをモバイルに振り向けることにしました。数年やってきて、このたび外部の力を借りてWebサイトを強化することになりました。