レイヤー3(L3)スイッチの用途が広がりつつある。L3スイッチは、IPパケットを転送する機能を持つLANスイッチを指す。IPがOSI参照モデルのネットワーク層(レイヤー3)に当たるため、こう呼ばれる。最近のL3スイッチは、企業ネットワークのコア層やディストリビューション層での役割に加え、アクセス層でも利用されたり、データセンター向け技術の流用が始まったりしている。この背景には、価格の低下と多機能化がある。

 ジュニパーネットワークス技術統括本部第三技術本部シニアテクニカル・コンサルタントの濤川 慎一(なみかわ しんいち)氏は、「近い将来、ネットワークを構成する全てのスイッチがL3スイッチになる時代が来る」と話す。本特集では、企業ネットワークの中核を担うL3スイッチについて、その最新事情や機能・用途を解説していく。前半はL3スイッチの変化や、基本機能について、後半は変化1つ1つの詳細について触れる。

L3スイッチの3つの変化

 L3スイッチの最近の役割の変化は、大きく3つに分けられる(図1)。まず従来ルーターが担っていた機能の取り込み。具体的には、BGPなどインターネットサービスプロバイダー向けプロトコルへの対応などが挙げられる。背景にはデータセンターの大規模化などがある。次はこれまでレイヤー2(L2)スイッチの持ち場だったアクセス層での活用。セキュリティ強化やQoS(キューオーエス)の必要性から、L3スイッチの機能を求める例が出てきている。3つめは、LAN全体の管理を省力化・効率化する機能の搭載である。統合管理機能や「イーサネットファブリック」対応がこれに当たる。

図1●企業におけるL3スイッチの機能や役割が広がりつつある
図1●企業におけるL3スイッチの機能や役割が広がりつつある
ルーターだけが持っていた機能を持つようになったり、従来L2スイッチの持ち場だったアクセス層で活用したり、管理を省力化する機能を搭載したりするようになった。
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 ネットワーク機器ベンダーは異口同音に「ルーターとL3スイッチの区分けは薄れてきている」と話す。最近はどちらも専用に開発されたASIC(エーシック)でパケットを転送処理する設計になっており、ハードウエア面での差がほとんどないのが理由の1つにある。このためルーターが得意としていたさまざまな機能の大半を、L3スイッチでもまかなえるようになっている。

 (2)のアクセス層での利用の背景にはL3スイッチの価格下落がある。かつてのL3スイッチは、1台100万円以上するのが当たり前だったが、現在は24ポートでギガビットイーサネット対応品でも普及品なら1台10万円弱からと、L2スイッチとそん色ない価格で入手できようになった。

 このためL2スイッチが主だったアクセス層に、L3スイッチを使える選択肢が出てきた。最近は、アクセス層でセキュリティ強化のために認証機能を求められたり、音声データを優先するためにQoSの機能を求められたりするようになり、高機能なスイッチを置く方向になっている。ネットワンシステムズ経営企画本部第1応用技術部スイッチワイヤレスチームの白井 利幸(しらい としゆき)氏は、「エッジ(アクセススイッチ)であれこれ機能を求めると、安価なL2スイッチでは機能が足りない場合がある」と説明する。

 (3)の管理機能の強化は、運用負荷を軽減する狙いがある。ネットワークの設定を変更する場合、通常のスイッチであれば、機器1台1台にログインして管理者が個別に設定する必要がある。その運用負荷が課題となっていた。

 課題への1つの回答が統合管理機能である。この機能があれば、コア層のスイッチ1台で配下のスイッチ群を一元管理できる。アライドテレシスマーケティング本部Global Product Marketing部 部長の佐藤 誠一郎(さとう せいいちろう)氏は、「今後、当社で販売する企業向けのスイッチ群は、原則として統合管理機能を持たせていく方針」と話す。

 そのほか、複数のスイッチを仮想的に1台のL2スイッチに見せるイーサネットファブリック対応のL3スイッチも増えている。イーサネットファブリックはもともとネットワークの冗長化と転送容量の拡大を両立するための技術だが、運用の効率化でも利点がある。

 以上の3つの変化により、LANの全域で、L3スイッチを採用する動きが出てきている(図2)。ジュニパーネットワークスのように「L2スイッチは作らず、販売する全てのスイッチがL3スイッチ」(同社の濤川氏)というベンダーも登場している。シスコシステムズでも、「スイッチのことをL2スイッチ、L3スイッチと区別して呼ぶこと自体がなくなった」(同社基盤技術グループスイッチングテクノロジー担当シニアコンサルティングシステムズエンジニアの山下 薫(やました かおる)氏)という。山下氏は、「今後もネットワークの全ての領域で高機能なスイッチを使う流れは加速するだろう」と見る。

図2●企業ネットワークでのL3スイッチの利用範囲が拡大している
図2●企業ネットワークでのL3スイッチの利用範囲が拡大している
コア層やディストリビューション層だけでなく、アクセス層やインターネットとのゲートウエイなどにもL3スイッチを使うようになった。
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