顧客満足度の向上、新ビジネスモデルの創造、現場状況の共有―。スマートデバイスが業務に変革を起こしている。各事例に共通するのは、現場の担当者が便利だと感じていること。現場業務の改善が進み、企業全体の効率が上がっている。

 スマートデバイスの企業利用は予想を超えるスピードで進んでいる。資生堂やリクルートライフスタイルは、スマートデバイスの導入を機にビジネスモデルの革新にまで至った。対面販売が必要なカウンセリング化粧品のコンサルタント約1万人にiPadを配布した資生堂は、iPad上のアプリを使ってこれまでにない顧客体験を実現。「お客様への提案の質向上をiPadで達成した」(資生堂情報ネットワークの毛戸部長)。

 東日本旅客鉄道(JR東日本)はスマートデバイスを用いて駅や事故現場といった現場間のコミュニケーションを活性化させただけでなく、現場から本部への報告の具体化とリアルタイム化を実現した。

 大企業だけでなく、その導入効果は中小企業にも及ぶ。クラウドサービスとスマートデバイスを組み合わせて現場のモバイル化を進める企業が増えている。特に中小企業はその機動力を生かして、短期間での実装が可能である。

 いずれの事例も、スマートデバイスによって現場担当者が便利だと思う機能を実現し、結果として企業全体にメリットをもたらしていることが共通点だ。

ビジネスモデルの革新:新たな顧客体験を創造
資生堂、リクルートライフスタイル

 百貨店のカウンセリング化粧品売り場。資生堂のカウンセラー「ビューティーコンサルタント(BC)」がiPadを手に接客する。iPadには顧客の顔写真が取り込まれている(図3)。「こちらの商品はいかがでしょうか」。BCがiPadを操作すると、画面内の顧客の顔写真が口紅や頬紅などを付けた画像になる。口紅の色や、選択する商品を変えれば、即座に画面内の顔写真も切り替わる。「いいですね。こちらの商品を試させてください」。顧客がそう言うと、BCは実際に商品を試用する準備を始めた―。

図3●資生堂がカウンセリング現場に導入したiPadの使用方法
図3●資生堂がカウンセリング現場に導入したiPadの使用方法
化粧品のカウンセリング現場に革新
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 これが、資生堂の「メーキャップシミュレーター」の利用シーンである。メーキャップシミュレーターは、BC約1万人に配布したiPadにインストールしてある、独自開発のアプリだ。2013年7月から利用を始めている。

 iPadの導入後は、メーキャップシミュレーターなどの効果により、実に83%ものBCが顧客に提案内容をより納得してもらえるようになったと感じているという。さらに顧客からも「分かりやすい」「楽しい」といった評価の声が上がっている。

 資生堂のiPad導入は、化粧品売り場におけるカウンセリングの課題を解決し、新しい提案の仕方を創造したといえる。これまでは、実際の商品を使ってメークし、次の商品を試すために一度そのメークを落としてから再度メークしなければならなかった。このやり方では、どうしても1回の接客で試せる商品の数は限られてしまう。

 メーキャップシミュレーターであれば、画面上で選択するだけでメーク後の顔を表示できるので、仮想的に多くの商品を試せる。その中から気に入ったものに絞って実際のメークを試せるため、「お客様の満足度を高めやすい。サービスの質向上を実現できたと考えている」(毛戸部長)。

 実は、これまでも大型の専用機であればメーキャップシミュレーターは存在していた。しかし、東京・銀座の直営店にしかなかったため、期間限定のイベントなどで各売り場に数日間貸し出す、といったことしかできなかった。

 この専用機とは異なり、iPad版のメーキャップシミュレーターであれば、約1万人のBC全員が常に使える。専用機に比べて一部機能を簡略化してはいるものの、これにより、シミュレーションしてからメークするという行為が特殊なものではなくなった。スマートデバイスがカウンセリング化粧品売り場に革新をもたらしたのだ。

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