PaaSを使い、クラウドでビジネスを推進する「戦略アプリ」を作る動きが活発だ。アプリの開発・実行環境が用意されているため、IaaSよりも高速にアプリが作れる。海外企業だけでなく国内企業でもPaaSを活用したクラウドアプリの開発事例が出てきた。PaaSのリーダーとして生き残るため、ベンダー各社はPaaSの強化にまい進している。
「Amazon Kinesisの活用により、1年以上かかる開発期間を5カ月に短縮できた。コストも30分の1で済んだ」―。自動車の買い取り・販売事業を手がけるガリバーインターナショナルの北島昇マーケティングセクション セクションリーダーは、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)の利用効果をこう語る。Amazon Kinesisはセンサーから常時送られる膨大なデータを収集する、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のPaaSだ。
戦略アプリを高速に開発
ガリバーではKinesisを使い、自動車に取り付けたセンサーから走行距離やガソリン残量などのデータを収集し、顧客の利便性向上につながる情報を提供するアプリを開発した。ほかにも、あきんどスシローやコニカミノルタなど、クラウド活用においてPaaSを使ってアプリを開発する動きが相次いでいる。
PaaSにはアプリの実行環境やデータベースなどのミドルウエアがあらかじめ用意されている。サーバーやストレージなどのインフラを提供するIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)の場合、OSやミドルウエアのインストールや各種設定、保守などはユーザーが行う必要がある。IaaSの方が自由度は高いが、アプリをより高速に開発したい場合や、開発作業に専念したい場合はPaaSの方が有利だ。戦略的なアプリをより速く開発する武器として、データベースなどのミドルウエアがセットアップされているPaaSを利用する流れが起きている。
アプリそのものを提供するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の場合、グループウエアやメールなど既存システムのリプレースには有効だが、アプリに自社要件を盛り込むことは難しい。従来のIaaS/SaaSが既存システムの“受け皿”とすれば、PaaSは“新たなアプリを生み出す場”と言える(図1)。
PaaS活用の典型例がビッグデータを分析するアプリだ。PaaSを使ってビッグデータを収集・分析する仕組みを構築し、そこから得られた情報や知見を基に顧客満足度や売り上げの向上を図る。ビッグデータ分析は米ウォルマートや米ボーイングなど米国企業が先行するが、国内企業でも事例が出てきた(表1)。あきんどスシローは、すし皿から情報を収集・分析し、商品の廃棄率を削減する仕組みをPaaSを使って構築した。