有機野菜を中心とした宅配サービスを手掛ける大地を守る会が、会員顧客一人ひとりに合わせてお薦め商品を選ぶレコメンドシステムを刷新し、売り上げを伸ばすことに成功している。
1977年設立の大地を守る会は、食材や加工食品、日用品の通販事業で成長してきた。急成長を遂げたのは、2011年3月11日に発生した東日本大震災がきっかけだった。独自の厳しい放射線基準を設けて、自前の検査体制を整えた同社は、首都圏を中心に、食の安全に対する意識が高い消費者の支持を受け、売り上げを拡大した。
安心で安全な食材がセールスポイントになっているのに加え、農家との間で仕入れ値を年間契約しており、野菜の価格が季節によって変動しないという点も評価されている。
同社は従来、会員顧客向けの注文サイト「会員専用サイト」と非会員でも注文できるEC(電子商取引)サイト「ウェブストア」という二つのウェブサイトを運営してきた。ウェブサイトの並行運営は、システム運用業務の効率の面で問題になっていた。また、「どちらのウェブサイトで注文すればいいのかが分からないと会員顧客を戸惑わせる原因にもなっていた」(大地を守る会IT戦略部部長の小笠原暁史氏)。
そこで2014年4月に、二つのウェブサイトを統合するプロジェクトを開始。約1年後の2015年6月に終えた。このサイト統合を機に、2013年3月から先行導入していた、ゼネリックソリューションのレコメンドエンジン「GS8」を、販促施策にフル活用する方針に切り替えている。
商品のレコメンドシステムを見直す
同社がレコメンドシステムを導入したのはGS8が初めてではない。2011年にブレインパッドのレコメンドシステムを導入し、一定の効果を上げていた。だが、ブレインパッドのレコメンドシステムはページビュー(PV)に応じた従量課金だったため、二つのサイトを持つ大地を守る会にとって、アクセス増に伴うコスト負担の増大が悩みの種だった。
ゼネリックソリューションのGS8の導入を決めた理由は、ソフトウエアのライセンスが定額だったことに加え、企業ごとに評価基準をあらかじめ設定できる点だ。
「優良顧客の定義を決めた上で、評価基準を明確化し、結果を基にレコメンドエンジンを改善していけることが決め手になり導入を決めた」(小笠原氏)。
大地を守る会はゼネリックソリューションとともに、「約3年分の受注データを基にして、KPI(最重要業績評価指標)としていた顧客単価を上げる施策を練った」(小笠原氏)という。
当初はゼネリックソリューションが分析して算出したレコメンドデータを基に、サイト上のお薦め商品を入れ替えて効果を測定。GS8とウェブサイトのシステムとのAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)連携を段階的に進めて、お薦め商品の入れ替えを自動化し、レコメンドエリアを増やしていった。
現在、大地を守る会のECサイト「大地宅配」のマイページには、異なる種類のレコメンドエンジンを活用したお薦めコーナーが4個ある(図1)。
例えば、「あなたが以前買った商品またはオススメ商品」というコーナーでは「反復性エンジン」と呼ぶレコメンドエンジンを採用。これは一度でも過去に購入したことがある商品を薦めるエンジンだ。
そのほか「ちかごろ人気の商品」では「新規性エンジン」を採用し、顧客の嗜好性に応じて新商品の初回購入を薦めている。「今週もいかがですか?」というコーナーでは「嗜好性エンジン」を採用。このエンジンは購入実績データを基に顧客ごとの嗜好性を把握し、季節性も加味してお薦めの商品を提示する。
GS8の要となるエンジンは「あなたがよく買う商品」で採用している「周期性エンジン」だ。顧客一人ひとりの購入実績データを基に、繰り返し購入している商品を抽出すると同時に購入間隔(周期性)を把握。会員顧客に対してタイムリーに再購入を薦め、買い忘れを防ぐ。
「レコメンドエンジンに掛かるコストは5割減、ウェブ全体の売り上げは8~10%向上した。レコメンド経由での売り上げは25%増えた」と、大地を守る会の小笠原氏は手応えを感じている。
11月からは、顧客ごとにレコメンドエリアの並び順を変えることで、さらに効果を高められないか試行する。
定期的に購入する商品を増やす
レコメンドエンジンとしては一般に「協調フィルタリング」と呼ばれる手法が用いられる。基本的な仕組みは、あらかじめ膨大な人数の顧客の嗜好性に関する情報を用意しておき、販促対象とした一人の顧客と嗜好性の類似した顧客グループを抽出。その顧客グループで人気が高く、販促対象の顧客が知らない、または購入したことのない商品を薦める、というものだ。
米アマゾン・ドット・コムのサイトで商品選択時に表示される「この商品を買った人はこんな商品も買っています」という機能も協調フィルタリングが用いられている。
GS8の特徴は顧客ごとに購買行動の「周期性」を見いだすことにある。GS8は、顧客行動のフィードバックを基に複数のエンジンを自動的に切り替え、最終的に周期性エンジンに結びつけて定期的に購入する商品を増やす、という考えで設計している。
例えば、顧客の嗜好性に応じて新規性エンジンで新商品を薦め、初めて購入したとする(図2)。その後、反復性エンジンで再購入を薦め、このタイミングでも購入した場合、GS8は購入間隔を把握する。そして周期性エンジンが顧客ごとに最適と思われるタイミングで薦め、定期的な購入に結びつけていく。
「顧客単価を上げていくには、定期的に購入する商品を増やしたうえで買い忘れを防ぐことが鍵を握る」と、ゼネリックソリューション代表取締役の小西亮介氏は語る。
レコメンドをアナログの販促にも
大地を守る会は、電話やチラシといったアナログの販促施策にも、レコメンドエンジンを活用する(図3)。
2014年12月から3カ月間にわたって試験的に取り組んだのが、コールセンターから会員顧客に電話を掛ける「アウトバウンドコール」への応用だ。大地を守る会では、注文件数の約1割を会員顧客向けのアウトバウンドコールが占める。
会員顧客の居住エリアによって、新しい商品の告知日と注文締め切り日が異なる。大地を守る会は、居住エリアごとの締め切り日が近づくと、コールセンターから未購入の会員顧客を対象に購入を促す電話を掛けている。
コールセンターの人員が限られていること、注文締め切りまでの時間が短いこともあり、従来は電話を掛ける会員顧客(架電リスト)を、客単価の高い人、休眠会員化している人に絞っていた。
このアウトバウンドコールの販促策を、周期性エンジンによって抜本的に見直した。客単価がいくらかであるか、休眠会員化しているかどうかとは関係なく、顧客ごとに繰り返し買うと思われるタイミングで商品を薦める電話を掛ける施策に変更したところ、「一定の効果を得られた」(大地を守る会の小笠原氏)という。
今後は、継続期間や購入した商品数の多さなど複数の条件でロイヤルティーの高さを判定し、優良な会員顧客の休眠化をいかに防ぐかについて検討していくという。
2015年11月中旬には、レコメンドエンジンのチラシへの応用を始める。具体的には、特定のエリアで1カ月間にわたり、会員顧客ごとに異なるお薦め商品を掲載したチラシを配布する。チラシは商品配送時に渡すカタログに同梱する。
1枚ずつ異なる印刷ができるバリアブルプリンターを使って、顧客ごとに購入する可能性の高い商品を掲載したチラシにする。チラシの内容は顧客ごとに異なる。
「チラシに対するレコメンドエンジンの活用方法や、掲載する商品の配置について検討を重ねる。効果が見込めるならば、本格的にシステム導入を検討する」(大地を守る会の小笠原氏)という。
EC(電子商取引)市場の拡大とともにレコメンドシステムの重要性は増している。しかし一般には、いったんレコメンドシステムを導入したあと、効果を高める取り組みをしないケースが多い。
大地を守る会は、ゼネリックソリューションと組み、ROI(投資対効果)という観点で、レコメンドシステムの活用の改善に取り組んでいる点が先進的といえる。