交通事故に巻き込まれたり急病で倒れたりした際、誰もが頼りにするのが「119番」だ。電話1本で救急車を呼び出せる便利な救急搬送システムだが、ここ数年出動要請が増加。病院へ搬送し終える時間が年々長くなり、消防や医療の現場が悲鳴を上げている。
こうした状況をITの力で解決する動きとして注目なのが、群馬県健康福祉部医務課の取り組みだ。全国で初めてスマートフォンを本格活用し、救急隊員と病院の間で、病院側の受け入れ体制の情報を迅速に共有できる新システムを稼働させた。クラウドの採用で低コスト化も実現した(図1)。
6.4分に1回出動
「この10年で出動回数は約2万回増え、病院収容時間が約10分も延びた」。群馬県健康福祉部で救急災害医療を担当する武井伸門主任は、悩みをこう明かす。平均して約6.4分に1回の割合で、1日約225回出動するという。現場に急行する時間はほぼ一定だ。ただ救急搬送に対応可能な医師の数が患者の増加に追いつかず、なかなか病院が見つからないケースが増えている。
解決に向けて今年の4月に本格稼働させたのが「統合型医療情報システム」だ。病院がすぐに重症患者などを受け入れ可能かクラウド上で情報を一元管理するもので、救急車や病院に配備したタブレットやスマートフォンから登録・参照できる。病院を探すシステムは専門用語で「応需」と呼ばれる(図2)。
同様の取り組みでは、佐賀県が2011年にタブレットとともに導入した「99さがネット」が先進的な事例として有名だ。群馬県は佐賀を参考にしつつ、一歩先行く工夫をしている。
応需システムによって救急隊員は、病院側が入力した受け入れ体制の現状をタブレットで検索可能になる。その結果に基づき1件目、2件目と順に電話し、それぞれの病院が実際に受け入れたかどうかを入力し、病院の受け入れ情報を更新していく。
ただ、実際に病院が受け入れてくれたかどうかは搬送が終わってから入力することが多くなりがち。搬送中は手当てが最優先であり、タブレットに入力している余裕はないからだ。「平均して、病院が見つかってから30分から1時間後にならないと最新の情報に更新されない。これは群馬県の実状に照らし合わせると問題があった」と武井主任は話す。
問題は、比較的119番が多く、更新前のわずかな間にほかの救急隊員が受け入れ打診の電話を病院にかけかねないこと。救急隊員にとっては無駄足を踏むことになるし、病院側も受け入れ直後で一番忙しい時間帯の電話対応は処置に影響が出かねない。