膨大なデータを収集・分析し新たな気付きを得る新手法、ビッグデータ。ここ数年、急速に進化し普及した技術の一つだ。今回は、ソーシャルメディアを活用する上でシステム担当者が知っておくべき勘所を解説する。
ビッグデータを利活用する動きが企業や自治体の間で活発になっています。今回はソーシャルメディアがビッグデータにもたらす可能性を、マーケティングの視点から探ってみます。
サッカー本田選手の動きを丸裸に
膨大なデータを収集し分析することで見えてくる好例をまず紹介します。イタリアの国内リーグで活躍するサッカー日本代表の本田圭祐選手の動きをデータで分析したケースです。
彼が活躍した試合とそうでなかった試合について、「ヒートマップ」を使って比較したことがあります。ヒートマップとは、試合中の選手の動きをデータとして記録しておき、試合中に得点に絡むなど動きが発生した場面でその位置などを可視化した図のことです。
過去の全試合についてヒートマップを作成すれば、対戦チームの特定選手やチーム全体について、「クセ」のようなものが浮き彫りになります。「クセを回避してうまく攻めよう」「いや、逆にクセと真正面から対峙してぶつかろう」。ビッグデータによって、有効な戦術を組み立てやすくなります。
勝ち負けにシビアなスポーツの世界では、少しでも優位に試合運びを進めようとビッグデータを活用する動きが積極的になっています。
多くの企業が取り組むのが、生活者に関する色々なデータを横断的に集め、重ね合わせて分析する活用法です。製品開発やマーケティング、経営など目的は様々。新たな気付きを得ようとビッグデータに着目しています。
ある企業が「海外で人気のアイスクリーム店」を東京に新しくオープンしようと検討している例で、どんなデータが役立つのか考えてみましょう。
まず欲しいのは、東京で働く人や遊びに来た生活者の行動に関するデータ。どこによく出かけているのか可視化できれば、人があまり歩いていない道路に面した場所に出店してしまうリスクは避けられそうです。
人通りが多い道沿いは家賃が高いため、家賃の安い穴場をデータで見つけたいところです。そこで今度は、生活者の属性別の行動を調べればよさそうです。アイスクリームを好む10~20代女性に絞り込んだ行動データを手に入れ、先ほどの東京の生活者全体の行動との違いを見比べるといいでしょう。
休日だけ人気で、平日は閑古鳥になってしまっては経営はうまくいきません。月単位や曜日ごとの行動の差も調べたくなります。もっといえば、アイスクリームという商材は季節変動の影響を受けやすいので、天候に関するデータもあれば、本当の意味での穴場が見つかる確率が高くなるでしょう。
このようにビッグデータは、様々なデータを何層(レイヤー)にも重ね合わせることで相関関係を見つけられるのが特徴です(図1)。
3つのポイントを押さえる
これからビッグデータを活用していく読者に、ぜひ知っておいてほしい3つのポイントがあります。「すべての種類のデータを扱うべき」「精度は重要ではない」「因果ではなく相関を示すものととらえる」――です。
巨大なデータの塊の中から何かを見付け出す作業は、「なぜ、生活者はそのような行動を起こしたのか」を追求する従来のマーケティングとは相容れないアプローチかもしれません。
ビッグデータでは、決して生活者の心理をひもとくことはできません。生活者の行動を現象として明らかにするだけです。すなわち、行動の原因となったものとの因果関係は分からず、浮き彫りになるのは行動と結果の相関関係だけです。
原因を明らかにするものは、相関関係をよく観察し、そこから導き出す「仮説」です。ビッグデータは「相関関係を示す」ための技術と割り切り、相関関係を基に生活者の心をつかむひらめきやアイデアをひねり出す必要があることを覚えてください。
マーケティング部門の社員にありがちなのが、ソーシャルメディアを過度に意識してビッグデータを活用しようと考える傾向が強いことです。ソーシャルメディア上に散らばる様々な情報だけがビッグデータだと考えるためでしょう。
一方システム開発部門の社員は、ソーシャルメディアでの活用を軽んじる傾向が強いとされています。社会インフラや医療など広範囲にわたるデータ群を想起するためでしょう。