ソーシャルメディアの普及で広告の効果が下がってきたと言われる中、戦略PR(パブリックリレーションズ)に取り組む企業や組織が増えてきました。開発した商品やサービスに対する支持を生活者から得るためには、クリエイティブで生活を軸としたコンテクスト(文脈・背景)に合致したPRが欠かせません。

 ここ数年、マーケティング担当者(広報担当者)の中で注目すべきキーワードとなっているのが“戦略PR”(パブリックリレーションズ)です。今回はソーシャルメディアを活用する方策の一つとして「パブリックリレーションズ」について解説します。

フォロワーを得る手段がPRに

 新商品の発表をする際、多くの企業では報道発表用のリリースは広報担当者に渡し、広告原稿はマーケティング担当者と調整するのではないでしょうか。メディア(主にマスコミ)に掲載してもらうための記者対応は広報部門、広告費を使ってメディアを利用するプロモーションはマーケティング部門という切り分けをしている企業が一般的です。広報とマーケティングは“まったく別の仕事”という考え方は、企業規模が大きくなるほど強くなってきます。

 これまでその認識は、問題にはなりませんでした。なぜならソーシャルメディアの普及前に「商品は広告で売れる」というマーケティングが成立していたからです。従来型の販売促進活動で最初の追随者(フォロワー)を得るための主軸となっていたのが広告でした。しかしメディア自体が多様化し、各メディアへの接触時間がソーシャルメディアによって減り、「広告が効きづらくなった」今、PRが注目されるようになりました。

 試しに、ある企業が実施した広報活動とプロモーション活動に対するWebサイトのPV数と、SNS上のサービス関連のワードを含む話題の出現数(クチコミ数)をグラフ化してみました()。広告によってサイトのPV数は跳ね上がりますし、SNSにも瞬間的な効果がありました。しかしSNS上の話題数に限れば、単純なリリース配信でも効果を上げられました。何より報道発表を兼ねたイベントがニュースとしてメディアに取り上げられたときは広告よりも高い効果がありました。

図●あるブランドでの新商品発表後のサイトPVとSNS話題出現数の変化
図●あるブランドでの新商品発表後のサイトPVとSNS話題出現数の変化
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 フォロワーを得るには、最初に始めた企業(商品)の存在を認知させるため、生活者が重視するソーシャルメディアで、効果のあるニュースを生み出す活動をすることが重要になります。

日本には無かった「モノを売るPR」

 そもそもパブリックリレーションズとは、あらゆる関係者に双方向のコミュニケーションによって理解を深めてもらう活動を指しています。日本の企業は対象を生活者に絞ったPR活動をするという意識が希薄だったことと、ソーシャルメディアが普及する前に双方向のコミュニケーションを可能とする手段を持たなかったことから、PRは「専任の担当者(広報)がメディアの記者や株主に対応するもの」として認識されるようになりました。

 ソーシャルメディアを活用したマーケティングやPR活動が先行している欧米では“戦略PR”という言葉は存在していません。欧米でのPRにはモノを売るための戦略が含まれているからです。日本ではその視点が欠如していたことから、戦略PRというキーワードが設定されました。

 戦略PRという言葉は、プロモーション効果を十分に発揮できるよう「世の中にモノが売れる空気を作り出す活動」を指します。その際にマーケティング部門と広報部門が協力して実施することの必要性が議論されています。

 具体的には、企業の発信する情報に生活者が接触する量が減り、広告への信頼度が低下している中で、マスメディアを使った広告のみの一方通行の発信ではなく、世の中の関心=生活者のためになるモノとして発信することが重要になるという議論です。平たくいえば、生活者が変わった今、企業も変わるには、広告もPRも統合したコミュニケーションで生活者に相対していこうと提案するものです。

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