「約3504万件、約4858万人」という膨大な数の個人情報が漏洩したベネッセ事件をはじめ、2014年に入って内部犯行による事件が相次いでいる。横浜銀行では盗まれた口座情報からキャッシュカードが偽造され、国立国会図書館では、のぞき見られた内部情報によって結果的に入札業務が妨害された。いずれも一般社員による「うっかりミス」などではなく、システム管理や運用を任されている人間が、明確な意図を持って情報を不正に入手し、悪用していた。

 こうした報道を見聞きし、「わが社は大丈夫か」と不安を募らせたり対策に追われたりしている企業ユーザーは多いだろう。セキュリティベンダーに尋ねてみても、「ベネッセ事件後、内部犯行防止や情報漏洩対策に関する相談やセミナーへの参加申し込みが急増している」と各社は口をそろえる。

従来の常識が通用しない

 漏洩事件を起こした企業は対策をしていなかったわけではない。多くのケースで「セキュリティポリシーや業務規則で従業員の行動を制限する」「教育を実施して意識を高める」「アクセスログを記録し監査する」「USBメモリーの利用に制限をかける」といった基本的な対策を実施していた。

 ただ、例えばベネッセ事件の場合、PCでのUSBメモリーの利用には制限をかけていたものの、スマートフォンとの間で画像などを転送する別の仕組みである「MTP(Media Transfer Protocol)」を制限していなかったことが内部犯行を招いた。

 この件でベネッセに欠けていたのは「情報の流出経路は増え続ける」という“新常識”だった(後述)。これを押さえていれば、「流出経路に漏れがないか」というチェックを定期的に行うことで、スマートフォン経由での情報流出を防げた可能性が高い。

 ITの技術革新は日進月歩で進んでおり、企業を取り巻く社会的状況も変化し続けている。情報漏洩を防ぎたい企業には、そうした変化によって次々と生まれる新常識をいち早く押さえ、対策の実効性を保ち続けることが求められる。セキュリティベンダーや専門家、ユーザー企業の取材を通じて浮かび上がってきた新常識を紹介しよう。

2014年7月9日 ベネッセコーポレーション
同社の通信教育サービスの顧客情報約760万件が漏洩した。6月末に顧客からの問い合わせで判明、システム運用業務を委託した企業の従業員がスマートフォン経由で盗み出していた
2014年2月5日 横浜銀行
預金者の情報を不正に入手し、キャッシュカードを偽造したとして、同行のシステムを保守管理していた富士通フロンテックの元部長が逮捕された。48口座から約2400万円が引き出された
2014年3月27日 国立国会図書館
ネットワークシステムの運用管理業務を委託されていた日立社員2人が入札業務に関する内部情報を不正に取得していたことが判明。不正取得は2011年から始まっていた