「従来のバックアップ運用で抱えていた課題を、クラウドのおかげで解決できた」――。
コニカミノルタの田井 昭氏(執行役 IT業務改革部長)はこう話す。同社は2014年後半から、パブリッククラウドの「Amazon Web Services(AWS)」のストレージサービスを、二次バックアップ先として本格的に利用するようになった。24Tバイトのデータを圧縮・重複排除したうえで、クラウドストレージに日次で転送している。
多くのユーザー企業は長らく、データの一次バックアップをディスクに取り、二次バックアップとしてテープにデータを保管する運用を続けてきた。ところが最近になってその運用を見直し、コニカミノルタのようにクラウドストレージを採用する企業が大幅に増えている。パブリッククラウドを活用した基盤構築を手掛けるTISの中澤義之氏(プラットフォームサービス事業部 プラットフォームサービス第1部主査)は「先進企業の事例を知って、自社での採用を検討するユーザー企業が大幅に増えた」と話す。
バックアップ対象と容量が増える一方
クラウドバックアップの導入が進む背景は主に二つある。一つはバックアップ対象の増加、もう一つはBCP意識の高まりである(図1)。
前者のバックアップ対象の増加は、これまではバックアップ対象にしていなかったデータが加わり、どのくらいのペースで容量が増えるのか、見積もりにくくなったことを意味する。
典型例は各種のログである。法規制への対応で長期保管が必要なログが増えている。いわゆるビッグデータの動向から、従来は対象外だったWebサイトのアクセスログなどもバックアップの対象として加わった。
ネットアップの山田一也氏(ソリューション技術本部 SE第1部 システムズエンジニア)は「大手製造業では動画コンテンツをバックアップ対象に追加するケースが目立つ」と話す。例えば、生産現場のベテラン従業員の熟練技術をノウハウ伝承の目的で撮影。デジタルデータ化してバックアップするといった具合である。
このようにバックアップ対象が増えてきたため、将来的なバックアップ容量の見積もりが、従来以上に難しくなっている。TISの中澤氏は見積もり通りに行かず、運用に悩むユーザー企業が少なくないと指摘する。「テープ装置の性能不足のために、本来はバックアップしておきたい一部のデータをあきらめている」(中澤氏)。
このようなバックアップ対象の増加と、それによる見積もりの難しさに対して、クラウドストレージはうってつけの解決策といえる。従量課金制でストレージの容量を必要に応じて柔軟に拡張しやすいからだ。
テープ代替の動きが本格化
クラウドバックアップが進むもう一つの背景は、BCP意識への高まりである。例えば、コニカミノルタの田井氏は「東日本大震災の後、それまでのバックアップの運用体制に課題があると気付いた」と打ち明ける。
同社は従来、一次バックアップをディスク、二次バックアップをテープに取り、別のデータセンターに移送して保管するという体制で運用していた。しかし、「復旧時のことを十分に考慮できていなかった」(コニカミノルタの田井氏)。例えば、平常時のデータセンターが被災した際に、別のセンターに保管したテープを誰が取りに行くのか。また、データをリカバリーする順番を誤ると、システムを復旧できないことが多い。いざという時に正しく運用できるのかと検討すると、心許なかったという。
そこでテープに代わるバックアップ先として、パブリッククラウドが有力と判断した。