ここ数年でクラウドベンダー各社のサービスレベルが上がった。選択肢の多様化により、IaaSでAWS一強だった状況が変わりつつある。AWSにない特徴や従来のSIを重視し、AWS以外を選ぶ例が増えた。適切なサービス選択のために、独自基準を設ける企業も出てきている。
同様のアンケート調査を実施した2年前からの変化の一つに、ユーザーから見たパブリッククラウドの選択肢が増えたことが挙げられる。2年前はIaaSならAWSが過半数、PaaSはセールスフォース・ドットコムの「Force.com」が半分弱を占めていた。
これまではAWS以外のサービスを使いたくても、AWSが備えている機能が無かったり、利用料金が高かったりといった理由から断念していたケースがあった。2番手以降のクラウドサービスの機能強化により、AWS以外を選ぶ企業が増えている。
今回の調査では、利用するクラウドサービスのベンダーについては100社中92社から有効回答(複数回答あり)を得た(図8)。
IaaS・PaaSでAWSが最も多いのは2年前と同じだが、マイクロソフトやグーグルのサービスを使うユーザーが増えている。マイクロソフトのAzureは2年前の同様調査では8%だったが、今回は13%に伸びた。
SaaSについてはグループウエアは2年前と同じく、グーグルの「Google Apps」とマイクロソフトの「Office 365」が強い。CRM(顧客関係管理)でセールスフォース・ドットコム製品が圧倒的な状況も2年前と同様だ。
各ベンダーがAWSにならって強化した機能は、いくつかある。例えば閉域網接続サービスなどはAWSが真っ先に投入し、他社が後追いした。AWSは2011年8月に、データセンター内に顧客専用の仮想プライベートネットワーク環境を作れる「Amazon VPC(Virtual Private Cloud)」を、日本でも提供開始した。2012年1月には、クラウドとオンプレミス環境を閉域網接続する「AWS Direct Connect」の国内提供を開始している。
Azureは2012年にAmazon VPCに近い「Azure Virtual Network」を海外で提供開始。その後、2014年2月のAzureの国内データセンター開設と同時に、国内提供を始めた。AWS Direct Connectに似た「ExpressRoute」は、2015年1月に国内でも提供開始している。
懸念払拭でAzureを採用
ネットワークやセキュリティ機能の不足から、AWS以外のサービスの利用に踏み切れなかったものの、その後の機能強化で採用に至った企業を紹介する。
積水化学工業は海外拠点のERP(統合基幹業務システム)統合で、Azureの採用を決めた。同社はグループの約2万人が使うグループウエアを、2013年から2014年にかけてオンプレミス環境からAWS上に移行した(図9)。
しかし、海外拠点向けのERPではAzureを採用したいと考えた。AWSではなくAzureを選んだ理由は、海外拠点のERPとしてマイクロソフト製品の「Dynamics AX」を利用していたことが大きい。
積水化学工業 経営管理部 情報システムグループ 担当部長の上野茂樹氏は、「AzureもDynamics AXもマイクロソフト製品なので、統一したサポートを受けられる」と、Azure採用の理由を説明する。
Dynamics AXのほかにも、オンプレミスのデータセンターにはWindows系のシステムがある。「今後、これらのシステムをパブリッククラウド上でも構築する場合、Azureのほうがコスト面で多少優位だった点も選定理由の一つ」と上野氏は話す。
しかし、同社が検討を始めた2014年夏の時点では、AzureはAWSのサービスレベルに達していなかったという。上野氏は「AWSと比べてネットワークやセキュリティの機能で足りないと感じるものがあった」と打ち明ける。ExpressRouteが国内で利用できなかったのも懸念材料だった。
その後、2014年秋のAzureのアップデートでネットワークやセキュリティの機能が向上。加えて、ExpressRouteが国内でも提供されることが分かり、Azureの採用に至った。