パブリッククラウドを全面的に活用する。こう宣言した約3割の企業には、IT活用の先進企業が顔をそろえる。むしろ注目したいのは、残りの7割。全面活用の予備軍ともいえる企業が続々登場している。

 パブリッククラウドの全面活用に取り組む企業は、約3割。本誌が2015年8~9月に実施し、100社から回答を得たアンケート調査で明らかになった数字だ(図2)。2013年の14%から、一気に倍増した。

図2 パブリッククラウドの活用方針に関するアンケート結果
図2 パブリッククラウドの活用方針に関するアンケート結果
「全面活用」が倍増、4分の1超に
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 この3割には、早くからクラウド活用に取り組んできた顔ぶれがそろう。コスト削減やインフラ運用の負荷軽減、BCP(事業継続計画)対策などが主な目的だ。

 2013年の時点で、クラウドファーストを宣言していた東急ハンズ。現在は、全システムを無条件にクラウドで稼働させている。日本通運も、インターネットイニシアティブ(IIJ)の「IIJ GIO」とAWS上に各種システムの移行を進めている最中。2015年3月には、グローバルで利用する会計システムがAWS上で稼働した。2016年以降は、人事給与や貨物トレースなどのシステムをIIJ GIO上で稼働させる計画だ。

 全面活用組には、コンシューマー向けネットサービスの運営企業も目立つ。クックパッドは、レシピサイトの全サービスをAWS上で運用する。「クラウドなら必要なインフラをすぐに用意できる。素早いサービス展開が可能だ」(インフラストラクチャー部の成田一生部長)。

 音楽配信を手掛けるレコチョクも、サービスのAWS移行を進めている。音楽サービスを取り巻く状況は変化が激しく、将来必要になるシステムリソースの見極めが難しい。「状況に応じてリソースを調整できるクラウドが適している」(同社の事業システム推進部 ミュージック・アーキテクトグループ グループ長 松嶋陽太テクニカルエキスパート)。

全面活用“予備軍”現る

 積極的なIT活用で知られる以上のような企業が、クラウド全面活用を打ち出すのは自然な流れだ。むしろ注目したいのは、これら以外の企業。今回のアンケートで「全面活用」以外を選択した約7割の中にも、可能な限りのクラウド移行を目指す企業がある。いわば、全面活用“予備軍”ともいえる存在だ。

 代表格がノエビアホールディングスである。既に大半のシステムを、IIJ GIOやAWSなどに移行済み。移行していないシステムはもはや二つだけだ。そのうち一つはファイルサーバーで、ハードウエアの保守切れを機に移行を検討予定。もう一つの医薬品関連システムは、法令面でクラウドでの稼働が明示的に認められていない。

 逆にいえば、クラウドに移行できるシステムの移行は完了している。全面活用に近い状態だ。

 同社は、クラウド活用を全社で推進している。同社が指向する「持たざる経営」を実現する上で、自社でIT資産を保有せずに済むクラウドサービスは有効だからだ。

 BCP対策も重視する。契機となったのが、2011年の東日本大震災だった。このとき、計画停電によるシステム停止の危機に直面。「巨大なExcelシートにシステムを列挙し、それぞれのバッチ処理がいつ実行されるか、システムが停止するとどんな影響があるかを検討した」(情報システム部 滝川奈緒美課長)。実際にはシステム停止は起こらなかったが、オンプレミス環境のリスクを痛感した。危機感を経営陣と共有したことで、クラウド活用が全社的に進んだ。

 最初にクラウドに移行したのは、Webサイトなど外部に公開するシステム。IIJ GIOを採用した。自社専有のハードウエアを活用できることから、経営陣などの理解も得やすかったという。現在では、IIJ GIO上に生産や販売など約160台のサーバーから成るシステム群を稼働させている。

 リソース共有型のサービスも積極的に活用する。営業支援では、セールスフォース・ドットコムの「Sales Cloud」を利用。AWSは、事業継続に与える影響が比較的少ないBI(ビジネスインテリジェンス)関連のシステムから導入を始めた。「Amazon Glacier」をファイル保管用に採用するなど、活用サービスを増やしている。

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