本連載では、“IT担当者”が担うべき仕事を基礎的な内容から分かりやすく解説していきます。少人数でIT機器・サービス全般を見ていたり、情報システム部門と他部門を兼務していたり、ITインフラを構築あるいは運用するノウハウを十分お持ちでない方の参考として、また、「自分は運用に必要な知識は一通り持っている」という方の“仕事内容のおさらい”として使っていただければと思います。

 クラウドサービスの利用方法はさまざまです。加入すれば利用を開始できるケースも、システム構築を伴うケースもあります。例えば、業務アプリケーションが予め用意されているSaaSは、導入すればすぐに利用開始が可能です。一方、PaaSを導入した場合は、PaaSのインフラ上に業務アプリケーションを自分でインストールし、設定しなくてはなりません。

 そこで今回は、システム構築を伴う場合の導入方法のポイントを、整理しましょう。

システム構築の委託先を使い分ける

 クラウドサービスの提供企業は、クラウドサービス専門の事業者やシステムインテグレーター、データセンター事業者などさまざまです。システムインテグレーターが提供するクラウドサービスを利用する場合は、システムの構築も併せて委託できます。クラウドサービス専門の事業者が提供するサービスを利用する場合は、システム構築を別途システムインテグレーターに委託する必要があります。

 クラウドサービス上で稼働するシステムを構築するシステムインテグレーターは、大きく捉えると2種類に分けられます。

 1つは、以前からシステム構築を手掛けているシステムインテグレーターです。筆者が所属する会社でも、最近はクラウドサービス上で稼働するシステムの導入コンサルから設計・構築、運用監視までを担当することがよくあります。

 もう1つは、「クラウドインテグレーター」と言われる、小規模で新興のシステムインテグレーターです。クラウドインテグレーターはもっぱら、アマゾンの「AWS(アマゾン ウェブ サービス)」やマイクロソフトの「Microsoft Azure(マイクロソフト アジュール)」などのクラウドサービス上へのシステム構築に特化して請け負います。こうしたシステム構築を、「クラウドインテグレーション」と呼ぶこともあります。

 導入企業のなかには、「どのような目的、用途でシステムを作るのか」で、従来のシステムインテグレーターとクラウドインテグレーターを使い分けているところもあります。この使い分けを考えるうえで参考になるのが、システムを「System of Records」と「System of Engagement」に分けるという概念です。これはジェフリー・ムーアという人が提唱したものです。

 System of Recordsは、記録が重要な、間違いも紛失も許されないシステムです。ERP(統合基幹業務システム)などの基幹系システムが該当します。構築や運用保守などに関わるコストが高く、バージョンアップ一つとってもきちんとテストを行うなど時間もかかります。いわゆる「守りのIT」といわれる分野です。

 もう一つのSystem of Engagementは、eコマースサイトやスマートフォンのアプリケーションなど、デジタル技術を駆使して、迅速に事業を広げていくシステムです。スピード重視の事業のためのシステムと考えてよいでしょう。いわゆる「攻めのIT」といわれる分野です。現時点では、System of Engagementに分類されるシステムの方が、クラウドサービスとの相性が良いとされています。

 一般的には、構築するシステムがSystem of Records(守りのIT)に分類されるものなら、ミッションクリティカルなシステムの構築実績が多くノウハウがある従来のシステムインテグレーターが向いています。一方System of Engagement(攻めのIT)に分類されるシステムは、小回りが利くクラウドインテグレーターが向いています。

この先は日経クロステック Active会員の登録が必要です

日経クロステック Activeは、IT/製造/建設各分野にかかわる企業向け製品・サービスについて、選択や導入を支援する情報サイトです。製品・サービス情報、導入事例などのコンテンツを多数掲載しています。初めてご覧になる際には、会員登録(無料)をお願いいたします。