本連載では、“IT担当者”が担うべき仕事を基礎的な内容から分かりやすく解説していきます。少人数でIT機器・サービス全般を見ていたり、情報システム部門と他部門を兼務していたり、ITインフラを構築あるいは運用するノウハウを十分お持ちでない方の参考として、また、「自分は運用に必要な知識は一通り持っている」という方の“仕事内容のおさらい”として使っていただければと思います。

 前回は、ITILの基本的な概要とサービスオペレーションについての話をしました。今回は、ITILの知識を得ることのメリットとその学習方法などをご紹介します。

ITILの知識があることのメリット

 どの企業でも、運用するにあたり、実情に合ったITサービスマネジメント運用マニュアルを作成し、それに基づいた手順書を作成します。その際のメリットとして、国際的に認められているITILの項目に沿って検討した方が効率が良く、必要項目を抜け漏れなく作成できる点が挙げられます。

 また、ITILでは、経営者も参画しなければいけないと定義されています。それは、重要なイベントが発生した際、経営者にすぐにエスカレーションしなければいけないからです。こうしたプロセスを常に意識して運用を考えていくことによって、日々の状況が可視化でき、誰が対応しても一定の品質で対応することが可能になります。

 このように、自社の運用マニュアルなどを作る際のガイドラインとしてはもちろん、自社の運用をアウトソーシングする際も、委託先のベンダーとの共通の拠り所として管理を進めることができます。どこまでを外部に委託し、どのように管理していくのか、それを決めるのは運用管理者になるからです。

 また、システムを開発する際にも、ITILの知識を持ったメンバーがいることで、最終的な運用を意識したシステムを構築することができます。システムを稼働させることと、稼働させ続けることは違います。システム構築する際の上流工程で意見を言うことができれば、運用面で非効率な事態が発生することはありません。システム構築を委託する際も、こうした運用面を意識した意見が反映されていれば、その後の運用は大きく変わってきます。

ITILの知識は、「ISO20000」と「ITIL Foundation」から

 ITILをもとにした「ISO 20000」という国際規格があります。国際標準化機構(International Organization for Standardization)によって、2005年に制定されました。第三者認証機関による審査で、自社のITサービスマネジメントに関する仕組みが適切であることを証明するものです。ITサービスの継続管理、効率性向上、継続的改善を実現する国際規格で、ユーザーが求めるITサービスの安定提供や品質向上に、ISO 20000に基づいた審査を役立てることができるのはもちろん、内部統制にも効果があります。

 ISO20000を企業が取得するには審査が必要です。ISO20000を企業で取得することは、第三者認証機関にITサービスマネジメントの仕組みが適切である企業と認定されるわけですから、一定のレベルを保っていることの裏づけになります。

 日立システムズは、ISO20000をアウトソーシングセンタ事業部で2006年に、ネットワークセキュリティサービス事業部で2008年に取得して以降、毎年定期審査をクリアし、更新を続けています。内容の改定があればその都度内容が公開され、それに基づいて現場の改善も実施しています。ISO20000を取得するための活動は、細かく項目が決められているので、その項目に沿って進めていくことで、ITILの知識も得ることができます。

 また、ITILの普及促進をめざしている団体itSMFでも、運用者を対象とした検定試験を実施しています。これに挑戦するのも、一つの手でしょう。かなりの知識が得られます。最初はITIL Foundationという資格で、その後ライフサイクルの全体管理を含むいくつかの試験に合格すると、ITIL Expertとなります。ITIL Foundationは、基礎的な部分を押さえた内容なので、概略は理解できるようになります。

 例えば日立システムズでは、運用にかかわる部署の社員は、全員にFoundationの取得が義務付けられており、ITIL Foundationは4386人で、Expertは61人が取得しています(2016年3月31日現在)。

 運用業務の共通認識の拠り所として、ITILをガイドラインとして参考にしてみてください。

 
前田和彦、杉島蔵人、玉井学、西尾明人
日立システムズ アウトソーシングセンタ事業部。多様な業種・業態のニーズに合わせたITシステムの運用コンサルティングから、設計・構築、監視・運用、点検・保守などフェーズ全般にわたってサポート。
http://www.hitachi-systems.com