本連載では、“IT担当者”が担うべき仕事を基礎的な内容から分かりやすく解説していきます。少人数でIT機器・サービス全般を見ていたり、情報システム部門と他部門を兼務していたり、ITインフラを構築あるいは運用するノウハウを十分お持ちでない方の参考として、また、「自分は運用に必要な知識は一通り持っている」という方の“仕事内容のおさらい”として使っていただければと思います。

 これまでの運用管理では、システムを安定的に稼働させるための決められた手順を確実に実行することが求められていましたが、現在は、ユーザー視点に立ったサービスマネジメントが求められています。そのためには、ユーザーの視点に立った手法とフレームワークを確立するとともに、プロセスを継続的に回して改善を続けていくことが必要です。

 その際に参考になるガイドラインが、1989年に英国の政府系機関が公表したシステム運用を含むITサービスマネジメントにおけるベストプラクティス(成功事例)を集めたフレームワークである、Information Technology Infrastructure Library(ITIL、アイティル)です。今回は、このITILについて解説します。

運用管理のガイドライン「ITIL」

 ITILの内容は、(1)サービスストラテジー、(2)サービスデザイン、(3)サービストランジション、(4)サービスオペレーション、(5)継続的サービス改善、以上大きく5つに分類されます。

 (1)サービスストラテジーは、システムの戦略を指します。何を目的とした運用を行うのか、という部分です。次の(2)サービスデザインは、その戦略に基づいたシステム・サービスの設計です。細かく言うと、サービスレベルをどうするか、可用性をどうするか、情報セキュリティの水準をどこに設定するかなどを設計するプロセスです。そして、設計された要素を実際に構築して実装していくプロセスを、(3)サービストランジションと呼んでいます。

 実際に本番環境に移行した後は、日々の運用として(4)サービスオペレーションを回していきます。最後のプロセスは、(5)継続的サービス改善と呼んでいます。日々PDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)を回し、継続的に運用を評価して改善を実施していきます。

図●ITILのサービスライフサイクル(itSMF Japanの<a href="http://www.itsmf-japan.org/aboutus/itil.html" target="_blank">Webサイトより</a>)
図●ITILのサービスライフサイクル(itSMF JapanのWebサイトより
出典:ITIL 2011 edition
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 自社の運用を自分たちで行う場合は、この中のサービスオペレーションというプロセスが重要になります。では、日々の運用に密接に関連する、サービスオペレーションについて詳しく解説します。

自社の運用で最低限必要な「サービスオペレーション」とは

 サービスオペレーションには、イベント管理、インシデント管理、問題管理、要求実現という項目があり、これらが必要最低限のプロセスとなります。

 イベント管理のイベントというのは、モニタリングツールなどで生成されるアラートのことです。通常の状態に変化が生じたこと、あるいはそのメッセージを指します。企業では、さまざまなITインフラを扱っていますが、毎日何かしらのイベントが発生していると思います。

 こうした変化=イベントに気付くためのマネジメントがイベント管理で、具体的には監視業務として、システムの動きを監視するプロセスが主となります。

 インシデント管理というのは、イベント発生を検知した後の動きです。イベント管理で検出した異常事象を、速やかに復旧させることを目的としたプロセスです。根本的な原因や根本的な対策は重要ですが、その前にまずビジネスへの影響を最小限に抑えなければなりません。従って、原因究明よりも先に復旧を優先させるプロセスを採ります。

 復旧させた後、問題管理というプロセスに進みます。これが、根本的原因の究明と根本的対策の採用を目指した管理プロセスです。イベントの再発防止が目的ですが、現実問題としてどうしても防止できない事象もあります。そういった種類のイベントに対するインシデントについては、ビジネスへの影響を最小限に抑えるための措置を考えるという行為も、問題管理に位置付けられます。

 要求実現というのは、外から来る問い合わせやそれに対する対応を指します。インシデント管理は、内部で発生した出来事を解決していく話ですが、要求実現は、外からインバウンドで入ってくる各種問い合わせや作業依頼を解決するプロセスです。この場合、要求というのは外からの要求を意味します。

 ただし、要求実現での要求は、日常運用上のちょっとした疑問・質問など、定型的な問い合わせを指します。あらかじめ定められていない要求、定形外の要求に関しては、変更管理と呼ばれる別のプロセスで処理します。

 ここでは、もともとサービス手法としてうたわれていない事項に対し変更が必要になるような要求に対しては、変更管理プロセスでしかるべき計画を立案して、対処します。ちなみにこのプロセスは、オペレーションではなく、サービストランジションに属します。

 人的にも資金的にも余裕があるのであれば全プロセスに対応すべきですが、もし、リソースに限りがある場合は、実行できそうな一部のプロセスだけでもITILの良いところを少しずつ取り入れていくことが重要です。

   また、自社の運用をアウトソーシングする際は、このサービスオペレーションの部分は、委託先のベンダー側が行いますが、その代わりにサプライヤー管理が必要になってきます。アウトソースするからといって委託先に任せきりではいけません。自社で、きちんとコントロールする人材が必要です。運用管理者には、知識、専門性が求められます。サプライヤー管理についてもITILの中で定義していますので、参考にしてください。

 なおITILは、IT業界だけで利用されているわけではありません。サービスの運用に関する考え方=サービスマネジメントですので、例えば、自動車業界やホテル業界などでも使われます。ITILは継続的に改善が図られ、より現場に即した内容に変化してきています。

 いろいろなプロセスを考える際、ゼロから自分で考えるよりもベストプラクティスで考えるほうが早く対応できます。合致しない部分については、自社に合うように考えればいいので、ガイドラインとしてITILを参考にしてみてください。

前田和彦、杉島蔵人、玉井学、西尾明人
日立システムズ アウトソーシングセンタ事業部。多様な業種・業態のニーズに合わせたITシステムの運用コンサルティングから、設計・構築、監視・運用、点検・保守などフェーズ全般にわたってサポート。
http://www.hitachi-systems.com