2013年9月、ドイツ・フランクフルトで開催されたモーターショー(正式には「Internationale Automobil-Ausstellung:IAA2013」)。「これまで電気自動車(EV)やハイブリッド車に“冷淡”だった欧州メーカー各社が、一斉にクルマの電動化を推進」とニュースで報道されたことに驚いた人は多かったであろう( フランクフルトショー関連の日経BP社記事 )。日産自動車のEV「リーフ」やゼネラル・モーターズ(GM)社のプラグイン・ハイブリッド車「ボルト」が販売台数を爆発的には伸ばせない状況下、日々頻繁に目にするニュースでは、欧州勢は小排気量の直噴過給エンジンや気筒休止など、当面は電動化ではなく既存エンジン技術の高度化で乗り切るという方向性を示していたからだ。

ニュースだけ追っていると、中長期トレンドを見逃してしまう

 このように、これまでの流れを一変させるような報道に戸惑うことがある。新聞などで日々、頻繁に取り上げられるタイプのニュースは、突き詰めれば昨日との差の速報で、変化の速い事象に関する情報が中心だ。

 これに対して「クルマの電動化」のように、動きは小さいものの、10年、あるいはそれ以上の期間をかけて徐々に変化が顕在化する、大きな“うねり”のようなトレンドは、その進展状況が逐一報道されることはない。

 だから新聞に取り上げられやすい、表層的で変化の目立つニュースばかりを追っていたのでは、その“うねり”は見えてこない。その結果「欧州自動車メーカーの電動化推進」のように、ある日突然顕在化し、日々のニュースの方向性とは逆の流れが、突如としてクローズアップされて驚くことになる。

公開情報を基に5W1Hをお金の流れで分析

 クルマの電動化のケースでは「確かに電動化は中長期トレンドなのかもしれないけれど、現実的な可能性や進ちょく状況はどうなのか?」「かつて何度もあった一過性のブームとは何が違うのか?」という疑問もわいてくる。

 それを検証する第一歩は、研究開発資金の流れと額を知ることである。もちろんドイツのダイムラー社やBMW社の電動車両に関する中長期的研究開発資金を調べることは事実上、不可能だ。だが、欧州全体で、どのような理由で、どのくらいの研究開発資金を投じているか──は、ある程度、把握できる。

 クルマの電動化であれば、環境保護、交通システム、産業競争力など、政策と深いかかわりを持ち、ひいては社会に大きなインパクトを与える技術である。そうしたプロジェクトには普通、基礎研究や中長期研究に関する助成金・補助金インセンティブがある。

 そして税金を使う以上、必ず「誰が」「どこで」「何を」「なぜ」「どのようにして」の5W1Hが明示された情報が公開されているはずだ。

 様々な公開情報からEU(欧州連合)の研究開発助成金の流れをまとめ、それに電気自動車関連の主要な技術をマッピングしたのが図1である。こうした作業を通して、クルマの電動化の背景にあるEUの基本的な考え方も見えてくる。

 それは「電動化は、将来の持続可能な交通システムの1つの手段であり、人の移動にICTを使いながら、公共交通や徒歩、自転車などを組み合わせて、利便性を低下させることなく時短や省エネを図る」「クルマの電動化は、一気に進めるのではなく、まず都市部の乗用車から始め、郊外(都市間)やトラックは後回しにする」「このため都市部では自家用車を所有しないことも推奨する」などだ。

図1 クルマの電動化から見たEUの研究助成資金の流れとテーマ決定プロセス
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図1 クルマの電動化から見たEUの研究助成資金の流れとテーマ決定プロセス
(出所:日経BP社『電気自動車年鑑2013』)

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