BtoB(企業間商取引)の世界でも、デジタルを駆使した営業の「空中戦」が本格化している。その中核となるのがマーケティングオートメーション(MA)。だが使いこなせず成果が出ない例も多い。BtoBマーケティングの第一人者、シンフォニーマーケティングの庭山一郎氏が連載「科学と感性のBtoBマーケティング」の特別編として、元凶に迫る。


 重要顧客に担当営業がしっかりと張り付き、日々ニーズを吸い上げながら製品やサービスを提案する―。「人」に依存してきた企業間のBtoB取引に、近年インターネットを活用した「デジタル営業」が浸透しています。既存顧客や新規に開拓したい潜在顧客向けにメールを送り、自社サイトに誘引して、閲覧動向を見ながら顧客の興味を推測し、リアルな営業部隊に情報を引き渡して訪問するといったものです。

 こうしたBtoBのデジタル営業に役立つとみなされているのがマーケティングオートメーション(MA)ツールです。米国では2000年代に爆発的に普及し、日本ではようやく2014年から導入が始まりました。

 ただし、MAを導入したものの、十分に使いこなせず成果が生まれないことに悩む企業も散見されます。本稿ではその原因を探り、解決策を考えていきます。

 そもそもMAとは何をするツールなのでしょうか?それを理解するうえではまず、BtoBマーケティングにおける「デマンド・ジェネレーション(案件創出)」という概念について知っておく必要があるでしょう。

1年たってもメール配信どまり

 デマンド・ジェネレーションは4つのプロセスを統合したものです(図1)。第1のプロセスは、展示会などで見込み客(リード)リストを収集する「リードジェネレーション」。自社サイトの訪問者リストもこれに含まれます。

図1●デマンドジェネレーションは4つのプロセスを統合する
図1●デマンドジェネレーションは4つのプロセスを統合する

 第2のプロセスは、それらデータを統合して整理する「データマネジメント」、第3は整理整頓された見込み客とコミュニケーションを重ねながら啓蒙・育成する「リードナーチャリング」、第4は有望見込み客を絞り込む「リードクオリフィケーション」です。

 この4つのプロセスを一体運用することをデマンド・ジェネレーションと呼びます。マーケティング先進国の米国では1990年代の後半から、それまでバラバラの予算と目標で部分最適に行われていたマーケティングプロセスを統合し、全体最適に連携させる取り組みが始まりました。これによってマーケティングプロセス全体を可視化できるようになり、成果を上げる企業が増えました。

 MAはこのデマンド・ジェネレーションのプラットフォームとして開発されたものです。商談機会を創出して、営業や販売代理店、SFA(セールスフォース・オートメーション)のパイプラインに供給し、売り上げに貢献しています。

 日本では、米国から約15年遅れの2014年から導入が始まりました。しかし2年半が経過し、MAの「屍」の山ができつつあるのが現状です。

 屍とは穏やかな言葉ではありませんが、「MAによって、欧米から大きく遅れていたBtoB企業のマーケティングがようやく前進する」というかつての期待値と比較すると、悲惨な状況だと言わざるを得ません。

 例えばある企業は、MAツールのベンダーと契約して1年が経過。ようやくメール配信の機能を使えるようになったところです。またある企業は、有望な見込み顧客を絞り込むシナリオを作成しました。しかし絞り込んだ見込み顧客が「本当に成約可能性が高いのか」に誰も確信が持てず、結局営業部門に引き継げていないという状況です。どの事例も、「売り上げに貢献していない」という点で見事に一致しています。

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