前回は、管理会計において、展示会や営業名刺のデジタル化などのリードデータ取得費用を「無形固定資産」として資産計上することを提唱しました。その理由は、資産化しなければ棚卸しの対象にすらならず、存在しない資産を管理するコストを正当化するのは難しくなるからです。私はこれが、日本企業がリードデータを正しく扱わない原因の一つだと考えています。リードデータを正しく管理できないということは、データベースマーケティングが機能していないことと同義なのです。

 2000年代の後半に入って、米国東海岸から 「リードジェネレーションを基点としたマーケティング」という既存概念を根底から変える概念が出てきました。これが「インバウンドマーケティング」です。

 2006年にHubSpotを創業したブライアン・ハリガンとダーメッシュ・シャアが2010年に上梓した「INBOUND MARKETING」で提唱した同名の手法は「ハウスリストを持たないマーケティング」でした。これは今までの、リードジェネレーションでハウスリストを作り、それに対してナーチャリング、スコアリングで絞り込んでいく、という流れとは全く異なるものでした。

 BtoB企業のハウスリストを構成するリードデータの定義は「企業名(業種や、売り上げや社員数などの規模が判別可能)」と、その企業に紐づいた「個人名(メールや電話でコンタクト可能)」でした。その定義に照らせばRSSやSNSでのフォロワー、ブログの読者などは明らかに従来のリードデータではありません。メルマガ登録者も多くの場合メールアドレスと名前だけを必須項目にしており、従来のリードデータの要素を満たしたものではありません。

 これは製造業で言えば、部品や原材料の在庫を持たない「看板方式」と呼ばれる手法に近い考え方なのです。極論すればハウスリストを持たずに、インターネットにアクセスできる人全てをリードと考え、その中からニーズが顕在化した人に「見つけてもらうこと」を目指すものです。

 インバウンドマーケティングを、コンテンツなどの側面から見て「旧来の考え方と何ら変わらないではないか」と言うのはこの点において明らかに間違っており、BtoBマーケティングの全体設計で観れば革命的に新しい概念なのです。

 先日、日経BP社主催のセミナーで一緒に講師をした東芝の荒井孝文氏は、LinkedInとHubSpotを組み合わせて、まさに「看板方式」のマーケティングを実現しており、グローバルマーケティングの一つの未来形を見せてくれました。

 LinkedInはビジネスパーソンのためのSNSとしてエッジを立て、本人の職歴や学歴、企業の中でどんな仕事をしてきたのか、その仕事ぶりは上司や同僚から見てどうだったのか、という個人の属性情報を濃密に備えたSNSです。これが転職用のSNSと言われた原因なのですが、この個人の属性情報を、マーケティングのリードデータとして活用できるなら途方も無い潜在力を持っていると言えるでしょう。2015年5月に米国ナッシュビルで開催されたSiriusDecisionsのSummitにもスポンサーとして参加していたLinkedInは、MAとの連携機能である「Lead Accelerator」をマーケティングソリューションとして紹介していました。

 残念ながら日本では未だLinkedInのユーザー数が少なく、利用していても属性情報をきちんと入れていない人が多いのが現状ですが、日本独自の発達を遂げている「名刺管理ソリューション」がその代替になる可能性が出てきました。個性的なTVCMですっかり有名になったSansanは、SFAなどのパートナーとのデータ連携を行う「Sansan Open API」を発表しました。

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