日本でも2014年からMA(Marketing Automation)というキーワードに火がつきました。Oracle、IBM、Adobe Systems、Salesforce.com(以下SFDC)など日本でも大きなビジネスを展開している企業がMAを買収して自社製品のラインナップに加え、独立系のMarketoが日本法人を立ち上げ、HubSpotの代理店が国内で販売を開始するという状況が重なったことが原因であり、その背景には過去10年間で普及が進んだSFA(Sales Force Automation)の再活用という課題がありました。

 この分野に長年取り組んできたことを知っている方からは「やっとこういう時代になりましたね」と言われることが多くなりました。うれしい半面、日本企業の実情に照らしてみれば、このままMAが普及して大丈夫なのかな?という気持ちが強くなります。

 SFAがこれだけ普及すればMAが必要になるのは必然で、むしろ遅過ぎたくらいです。長い不況を経験してきた日本企業が、いたずらに社員を増やさずに売上を確保する唯一の手法としてマーケティングを強化するのは理にかなっていますので、このMAが一過性のブームで終わるなどありえないことです。

 そんなことよりはるかに心配なことは、「MAの屍(しかばね)の山」を作らないことです。私はそれだけを心配し、そうならないために、コラムを書き、セミナーで話すなど、日本中を飛び回っています。

 「屍の山」とは、導入の失敗事例のことです。このまま行くと早晩日本では、MAの導入をめぐってベンダーとユーザー、ベンダーとコンサルなどで訴訟合戦が始まりかねない様相なのです。そしてこれは、20年前のCRM(Customer Relationship Management)ブーム、10年前のSFAブームと酷似しています。

 以下は、2006年当時、私が連載を持っていたjapan.internet.comに「F-15イーグルとマーケティング・ソリューション」と題して書いたコラムを抜粋したものです。第2世代のSFAであるSiebel(シーベル)、やVantive(ヴァンティブ)、Pivotal(ピボタル)などが衰退し、代わりに「SaaS:Software as a Service」という新しい概念を引っさげてSFDCを筆頭にした第3世代のSFAが台頭してきた頃で、日本でも一気に普及が進むタイミングでした。でも私にはそれらを導入する企業側にSFAを運用できる体制ができているとは思えませんでした。その危惧をジェット戦闘機をメタファーにして書いたのです。

<オブジェになる運命は最初から決まっていた>
私は時々SFAやCRMなどの最先端のマーケティング・ソリューションをジェット戦闘機に例えて話すことがある。
F-15イーグルというアメリカ製の戦闘機は長い間世界最強の戦闘機だと言われてきた。日本を含めた多くの国がこれを主力戦闘機として導入しており、その価格は1機約40億~100億円である。性能比較してみるとこれがいかに優れた兵器かがわかる。スピードや運動性能はもちろん、スマートな戦闘機のくせに拡張性が高く、ちょっと改良して爆弾の搭載能力を高めると、「ストライク・イーグル」という名の爆撃機になったりするので、使い方に よっては1機で数個大隊にも匹敵する力を持っている。
しかし、当然のことだがどこの国でも持てるわけではない。
もしある小国の大統領がこの戦闘機の性能に魅了されて数十億円を投資して発注したとする。戦闘機は納期どおりに納品されるだろうし、メーカーからは多くのエンジニアがやってきてチューニングや試運転、動作確認をするだろう。全てのチェックが完了すると彼らは検収印が押された納品控えを手に帰っていく。後に請求書を残して・・・。
しかし、その国にはこの戦闘機を整備できるエンジニアがいない。この高速ジェット戦闘機を管制できるレーダーシステムも持っていないし、航空戦を指揮できる参謀もいなければ、そもそもこれを飛ばせるパイロットがいない・・・。
かくして世界最強のF-15イーグルは大統領官邸の庭に飾られることになる。数十億円のオブジェとして。

出典:japan.internet.com/庭山一郎

 この比喩は果たして大げさだったでしょうか?これを書いた時に「なんでせっかくのブームに水を差すんだ!」と怒った人がいたと聞きます。「ネガティブにあおって仕事を取りたいのではないか?」と勘ぐる人もいたそうです。

 もちろん私の懸念などとは無関係に普及は進み、本当に多くの企業がSFAに多額の投資をし、数カ月か数年の間、何とか運用に乗せようと苦しみ続けた末に、その活用を断念しました。使っている企業も、「営業の生産性を飛躍的に向上させる」「営業工程の無駄を無くすために、営業を情報武装する」という当初の目的をどこかにしまいこんで、細々と部分的に使ってお茶を濁しています。

 「SFAは導入したけどちゃんと運用できていない」「もう運用を止めました」という膨大な屍の山を私は力なく見ていました。そして、MAはこれより遥かに悲惨になると私はみています。その理由は、CRMやSFAに比べてMAの方がはるかに運用の難度が高いからです。

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