スマートデバイスの端末だけでなく、アプリやデータも一括してきめ細かく管理できる「EMM（Enterprise Mobility Management）ソフト」に注目が集まっている。米MobileIronの製品が知られるが、米Citrix Systemsや米VMwareはEMMとデスクトップ仮想化を合わせたスイートソフトを投入した。
「スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスを、メールやスケジュール管理にとどまらず、さまざまな業務に使っていこうという企業が増えている。その結果、アプリやデータの管理が課題になっている」――。企業向けのモバイルシステム導入支援を手掛ける、野村総合研究所の福本 治氏（IT基盤イノベーション事業本部 IPコミュニケーション事業二部 上級システムコンサルタント）はこう指摘する。
従来、スマートデバイスの管理には、MDM（Mobile Device Management）ソフトが使われてきた。これは端末そのものを管理することを主眼としたものであり、アプリやデータの管理機能は十分とはいえなかった。2012年ごろにはアプリ管理のMAM（Mobile Application Management）ソフトが登場したが、データ管理の機能を備えていなかった。
これに対して最近では、EMM（Enterprise Mobility Management）ソフトが注目を集めている。端末管理の「MDM機能」に加え、アプリ管理の「MAM機能」、さらにデータ管理の「MCM（Mobile Content Management）機能」を併せ備える（図1）。このうち特にMCM機能は、従来のMDMソフトやMAMソフトが備えていなかったもの。具体的には、「フォルダー単位でのファイルの自動配信」や「外部アプリでファイルを開くOpenInやコピー＆ペーストの禁止」を実現する。
EMMソフトとしては、米MobileIronの「MobileIron EMM platform」が知られている。同社は、同等の機能を、「MobileIron MDM Connected Cloud」というクラウドサービスとしても提供している。
さらに最近のトレンドとして、EMMソフトにデスクトップ仮想化ソフトを組み合わせたモバイル管理スイートソフトが登場している。米Citrix Systemsと米VMwareはそれぞれ独自にスイートソフトを開発。Citrixは今年6月30日に、VMwareは同年8月27日に提供を始めた。製品名は「Citrix Workspace Suite」と「VMware Workspace Suite」である。
これらのスイートソフトは、MAMの機能を強化し、「仮想デスクトップアプリ（PC用アプリケーション）の配信」「仮想デスクトップアプリの認証代行」を実現する。
仮想デスクトップアプリも管理
まず、MAMの機能強化である、仮想デスクトップアプリの配信と認証代行について、Citrix Workspace Suiteを例に説明しよう。
従来、スマートデバイスでの仮想デスクトップアプリの利用には、いくつかの課題があった。利用者は仮想デスクトップアプリをサーバー上の仮想マシンで動作させ、スマートデバイスに画面転送して使う。ここで、システム管理者あるいは利用者には、スマートデバイスにおいて接続先サーバーやデスクトップアプリを設定する手間が掛かる。また、ID/パスワードなどを使って認証するので、利用者にとって煩わしさがある。
これらの課題は、モバイル管理スイートソフトのMAM機能によって解消できる。Citrix Workspace Suiteでは、社内向けApp Store/Google Playといえる、アプリの配信機能「Worx Store」で、利用者を指定して仮想デスクトップアプリを配信したり、アプリのアイコンを並べて利用者に選択・ダウンロードさせたりできる（図2）。配信する仮想デスクトップアプリについては、あらかじめ接続先サーバーなどを設定しておけるので、利用者は設定が不要だ。
さらに、認証代行機能によって、仮想デスクトップアプリを使うときのID/パスワード入力の煩わしさがなくなる。利用者が仮想デスクトップアプリを起動したら、EMMのエージェントアプリ「Worx Home」が起動し画面が切り替わる。Worx Homeは電子証明書で認証し、完了するとログイン済みのアプリの画面に遷移する。この電子証明書は、システム管理者がリモートで失効させられる。