データを細切れにして暗号化し、複数の記録媒体に分散することで安全性を高める「秘密分散技術」。同技術に基づく製品「ZENMU(ゼンム)」シリーズを開発・販売するZenmuTech(ゼンムテック)は、2017年2月に銀行系や大学系ベンチャーキャピタルなどから2億5000万円の出資を受け、注目を集める。同月には社名を「TCSI」から「ZenmuTech」に変更。「ZENMUで世界に打って出る」と意気込むZenmuTechの田口善一CEO(最高経営責任者)に、製品の特徴や経営方針などを聞いた。

(聞き手は佐藤 雅哉=日経コンピュータ


ZenmuTechの秘密分散技術について教えてほしい。

 秘密分散技術そのものは20年ほど前から存在している。データをブロック片に分けて暗号化し、それらを分散して保存するものだ。秘密分散技術でもいくつかの方式があり、これまでは「しきい値秘密分散法」がメジャーだった。7割程度のデータがそろえば情報を復元できるというもので、BCP(業務継続計画)強化用途で使われていた。

ZenmuTechの田口善一CEO(最高経営責任者)
ZenmuTechの田口善一CEO(最高経営責任者)
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 これに対し、当社がZENMUで採用したのは「AONT(All or Nothing Transform)」と呼ばれる方式だ。当社は最初のサーバー版製品を除いた製品について、AONT方式に基づき、独自開発したソフトを採用している。開発の過程で複数の特許も取得した。

 AONT方式は100%データがそろわなければ情報を復元できない特徴がある。一つでもデータ片が欠ければデータを復元できないので、データ片の一部が盗まれても情報漏洩には当たらない。我々は「データの無意味化」と呼んでいる。

 ZENMUはデータをどんな割合で分割するかをコントロールできる。例えば、分散したデータの大半をPCに、小片をスマートフォンやUSBメモリーに保持しておくような使い方だ。さまざまな情報漏洩の対策製品があるが、ZENMUはPCのデータを盗まれても安全なため、全く新しいコンセプトの製品で、従来のセキュリティ対策を不要にする技術だ。

 我々はAONT型の秘密分散技術をZENMUブランドでノートPCやサーバー向けに製品化しているほか、OEM(相手先ブランドによる生産)でも提供している。例えば、パートナー企業の富士通は、将来的にZENMUをスマホの近距離無線通信と組み合わせて使う予定だ。データの一片を保存したスマホをPCに近づけると、データを復元できるようにする。スマホを持った利用者がPCから離れれば、データを使えなくなる。外出先でもノートPCをフルに使って仕事をでき、万が一紛失しても情報漏洩の心配がなくなるというわけだ。

「出る杭」を経て世界に

導入事例を教えてほしい。

 既に住宅メーカーのLIXILや大手鉄鋼メーカーなどが採用している。2015年8月から販売しているPC向けのサービスでは、5万ライセンスを販売済みだ。富士通をはじめとする日本の名だたる大手ITベンダーや通信事業者がパートナーになりつつあり、政府関係者や米シリコンバレーの投資家からも評価してもらえている。

 従来のセキュリティ製品と全く違うコンセプトのためか、「出る杭は打たれる」の通りに創業当時はなかなか各社に相手にされなかった。実績を積んだことで、もう“出る杭”のように打たれる心配はなくなった。

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