約2年前から試験運用、現場の意見を取り入れる

 JR西日本がiPad導入の検討を始めたのは2012年夏のことだった。当時から課題として上がっていたのは、約3キログラムと重く、かさばる紙の規程類の廃止である。ただ、「紙の使い勝手に慣れている乗務員からは、新しいデバイスの採用に対する不安の声も当然ながらあった」(小山氏)。

 新システムを現場に浸透させ効果を上げるには、現場の不安を取り除く必要があった。そこで小山氏、藤原氏らは、2013年1月から3月にかけて、一部の乗務員にiPad約40台を配布、試験的に運用することにした。

 「実際に乗務員に使ってもらったところ、我々IT部門だけでは分からなかった問題点がいくつも判明した」と藤原氏は言う。試験運用に協力した乗務員からは、「閲覧だけでなく書き込みができるアプリが欲しい」「書き込んだデータが保存されるようにしてほしい」「落としても壊れにくいケースがあると便利」「線路図やオペレーション図があると使いやすい」など、様々な要望が寄せられた。

 しかし、これら多くの要望は期待を反映したものだった。試験運用後のアンケートの結果、協力した乗務員の約8割が「ぜひ導入してほしい」とiPad導入に積極的な姿勢を示したのだ。これを受けて、2013年12月には新幹線乗務員全員へのタブレット導入を正式に決定、2015年1月からの運用開始に至った。

現場が安心して使えるリモートアクセス環境を

写真●タブレットケースは、「落としても壊れないように」という現場の声に応え採用した。JR西日本のロゴ入りだ。
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写真●タブレットケースは、「落としても壊れないように」という現場の声に応え採用した。JR西日本のロゴ入りだ。

 正式に導入が決まったものの、新幹線内や駅などで乗務員がタブレットを使うためには、セキュリティの確保や、JR西日本のサーバーから必要な情報を随時取り込むための仕組みが不可欠だ。

 同社は以前から、閉域網サービスとして「KDDI Wide Area Virtual Switch(KDDI WVS)」を利用しており、現在は、ファイアウォール機能を備えた最新版「KDDI WVS2」への切り替えを進めている。今回、この閉域網にタブレットからリモートアクセスするためのサービスとして同じくKDDIの「Closed Packet Access(CPA)」を利用することにした。また、タブレットに運行情報を随時配信するためのキャッシュサーバーは、クラウド基盤サービス「KDDIクラウドプラットフォームサービス(KCPS)」上で稼働させている。

図●JR西日本が新幹線乗務員向けに導入した、タブレットによる支援システムの概要
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図●JR西日本が新幹線乗務員向けに導入した、タブレットによる支援システムの概要

 このほか、セキュリティ管理や紛失対策のために、クラウド型のMDM(モバイルデバイス管理)ツールも導入した。「MDMですべてのiPadを管理しており、乗務員が勝手にアプリをダウンロードすることはできないようになっている」(藤原氏)。

 iPad(セルラーモデル)および周辺サービスをKDDIから導入した理由として小山氏は、第一に安全面や安定性を挙げる。「以前からKDDIのサービスを利用しているが、セキュリティやネットワークの安定性には信頼をおいている。旅客輸送の生命線は安心/安全なので、バックエンドの通信ネットワークにも同様の信頼性を求めるが、これまで障害の頻度も少なく、とても安定している」

 もう一つの決め手が、閉域網とパブリッククラウド(KCPS)を併用できる点だった。「現在、当社の情報資産は原則、自前のデータセンター上に置いている。だが、内容によってはパブリッククラウド上での管理が可能なものもあるので、機密性の度合いによって、両者を使い分ける方針に転換しつつある。KDDIはそのニーズに応えてくれた」(藤原氏)。