トラブルなしの快適運用を実現

 現在、この「ライナー券発券システム」は23台のiPadに導入され、ライナーの停車駅の駅員と車掌、アテンダントが利用している。「多少のトラブルは発生するだろうと想定していたが、蓋を開けてみると業務に支障が出るようなトラブルは皆無だった。機能を絞りこんだことと、事前に徹底したテストを実施したのが良かった」(吉村氏)。

写真●「シンプルで分かりやすい」と社員の評判も上々だ
写真●「シンプルで分かりやすい」と社員の評判も上々だ

 短期間で構築したシステムだが、列車の運行に関わるシステムだけに"安かろう悪かろう"は許されない。「何かあれば、お客様にも社員にも多大な迷惑をかけることになる」(吉村氏)。そのため、事前テストは徹底して行った。「走行中の列車内での稼働確認や、アクセスが集中した場合の応答性など、サービスインの直前まで調整に取り組んだ」と吉村氏は振り返る。

 また、システムを稼働させるインフラの選定にあたって問題になったのが、「あいの風ライナーの利用者数がどれくらいになるのか、開業してみないと分からない」(吉村氏)ことだった。そこで、運用を開始した後でも、負荷状況に応じてスペックを変更できるクラウド上での運用を決めた。

 現在、座席管理データベースやライナー券発券システムなどは、KDDI クラウドプラットフォームサービス上で稼働している(下図)。ライナー券発券システムのユーザーへのヘルプデスクは、あいの風とやま鉄道が自社で行っている。

 「システムが安定しているので、ヘルプデスク業務の負担はさほど大きくない。システム保守の手間もほとんどかからないことも、クラウドの大きなメリット」と吉村氏は語る。システム専門の部署がない同社にとって、関連業務をどこまでアウトソーシングできるかは重要だ。

図●KDDIのクラウドサービス上にシステムを構築することで、保守運用の負担を軽減できた
図●KDDIのクラウドサービス上にシステムを構築することで、保守運用の負担を軽減できた
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鉄道ビジネスを変える新インフラ

 あいの風とやま鉄道には現在、ライナー券発券システム用の23台を含め、約90台のiPadがある。業務マニュアルを電子化して携帯したり、異常発生時などの写真・動画共有などに活用しているが、今後、他の用途にも活用場面を広げていく方針だ。

 「列車の現在位置や遅れの状況を画面に表示して、お客様にご案内するといったことはもちろん、運行指令と運転士とのやり取りも、今は無線で受けた指示を紙に控えるなどしているが、iPadで指示を受け取った運転士が確認ボタンを押す、といった形にすれば、安全性を確保しながら業務の改善を図れる。GPS(全地球測位システム)で列車の位置を確認して、運転士を誘導するといったこともできるようになるだろう」と吉村氏。

 スマートデバイスとモバイルプリンターによる車内発券システムの実用化は、少なくとも国内ではこれが初とみられる。また、列車内で指定券を発券する仕組み自体、JRでもこれまで例がなかったという。厳しい要件をバネに、これらの高いハードルをクリアしたことで、あいの風とやま鉄道は、「これまでよりも広範に展開できる新しいインフラ」を手に入れたことになる。多くの可能性を秘めたタブレットとクラウドというインフラが、これからの鉄道ビジネスを変えていきそうだ。

あいの風とやま鉄道株式会社
あいの風とやま鉄道株式会社 代表取締役社長:市井 正之
本社所在地:富山県富山市諏訪川原1-3-22
設立:2012年7月24日
資本金:40億円
従業員数:414人(2015年4月現在)
事業内容:旅客鉄道事業