「止めない」その4:切り替え時にもサービスが途切れない

 「MRの動きを止めないインフラ」を実現するためには、「ファイザー社員がモバイル端末やインフラを、切り替え時期も含めてスムーズに使い続けられる」(岡崎氏)ことも重要な要件だった。これに貢献したのが、KDDIが提供する、スタッフ4人による常駐サポート部隊「モバイルコンシェル」である。

 モバイルコンシェルは、ヘルプデスクや故障対応といった日常サポートだけでなく、導入前のキッティングや、同梱するマニュアルの作成でも活躍した。「切り替えは非常にスムーズで、サービスが途切れたり、不便を感じたりすることがまずなかった」と岡崎氏は高く評価する。

 特に工夫を凝らしたのが、iPhone 5Sを配布する際に箱に同梱したマニュアル冊子だ。「iPhoneを使ったことがないユーザーでも、このマニュアル冊子を見れば自力でセットアップできるようにモバイルコンシェルのスタッフに作ってもらった」と海老原氏は話す。例えば、操作手順ごとに細かく通し番号を付けてあり、途中で分からなくなった場合には、その番号をモバイルコンシェルに伝えればスムーズにサポートを受けられるといった工夫がされている。

図●iPhone 5Sを配布する際に、箱の中に同梱したマニュアル。iPhoneが初めての社員も自力で使い始められるように工夫した
図●iPhone 5Sを配布する際に、箱の中に同梱したマニュアル。iPhoneが初めての社員も自力で使い始められるように工夫した
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 今回のモバイルインフラ再構築にあたって、ファイザーはキャリア3社に提案を求めた。各社が端末の更新とLTE回線への切り替えを軸に提案してきた中で、KDDIは唯一、iPhoneとは別にWi-Fiルーターを携帯することを提案し、これが採用の決め手となった。「全員がiPhoneと別にWi-Fi WALKERを持つという提案は、予想していなかった」と岡崎氏は振り返る。

 従来利用していたiPhoneのテザリング機能は、電池切れで使えなくなる心配があり、通信速度の点でも十分とは言えなかった。そのため、セミナーのライブ配信用には、別途Wi-Fi WALKERを共用備品として用意し、予約して借り出すという運用をしていた。だが、今後さらに通信速度に対するニーズは高まると考えられたことから、KDDIの提案を採用した。「実際、電池の持ちの不安はなくなり、通信スピードも大きく向上した。今は満足している」と岡崎氏は語る。

 ファイザーは、MRなど外勤の多い社員が持ち歩くiPadの刷新も進めており、2015年2月までに、KDDIからiPad Air2200台を導入している。

全社規模でコミュニケーション基盤を見直し

写真●ファイザーが今回導入したiPad Airの画面
写真●ファイザーが今回導入したiPad Airの画面
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 ファイザーは、今回のプロジェクトとほぼ同時期に、本社ビルのリノベーションや、コミュニケーション基盤の見直しを進めている。モバイルインフラという枠にとどまらず、物理的な条件に制約されない働き方を実現する環境を作っていこうとしているかに見える。現在具体的に進んでいるのが、フリーアドレスの導入や固定電話の撤廃である。

 「米国本社では既に取り組みが進んでいるが、今後は在宅勤務などのワークスタイルの多様化についても、積極的に取り組んでいくことになる」と岡崎氏。モバイル先進企業として知られるファイザーだが、ワークスタイル変革の先進企業としての同社の今後にも注目したい。

ファイザー株式会社
本社所在地:東京都渋谷区代々木3-22-7新宿文化クイントビル
設立:1953年8月1日
売上高:5020億円(2014年度)
従業員数:5002人
事業内容:医療用医薬品の製造・販売・輸出入