「止めない」その2:長時間のライブ配信にも余裕で耐える


 同社のMRがモバイルツールの動きにうるさいのには、多忙であるということ以外にも理由がある。製薬会社のMRは近年、強力なモバイル環境なしには戦えない環境に置かれているからだ。

写真●MRなど外勤の多い社員が携帯する「3点セット」、つまりノートPCとiPhone、Wi-Fi WALKERである。これにiPadが加わることも多い。
写真●MRなど外勤の多い社員が携帯する「3点セット」、つまりノートPCとiPhone、Wi-Fi WALKERである。これにiPadが加わることも多い。
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 顧客である医師は、新しい医薬品やその使い方、診断法、治療法、検査法など、実務に役立つ様々な情報を必要としている。情報収集の手段としては、学会や論文雑誌、論文データベース、書籍などが以前から使われていた。だがネット環境が発達した近年、全国各地で開かれる勉強会やセミナー、シンポジウムなどをネットで視聴する、あるいはインタラクティブなイベントにネット経由で参加するという医師も増えている。

 多忙な医師が遠方で開かれる学会や勉強会に出張して参加するのは難しいが、ネット経由でなら、簡単に最新の情報を入手できる。製薬企業から見れば、ネット経由で有用な実務情報を全国の医師に提供できれば、医師や薬剤師からの評価が高まり、営業強化にもつながる。

 そこで製薬各社は、著名な専門医やカリスマ指導医などのセミナーを企画し、それを全国各地のサテライト会場にライブ配信するという取り組みを強化している。各社のMRが担当する医療機関の会議室を借りて実施することも多い。ファイザーの場合、著名な指導医を複数招いて毎年開催する「ファイザー若手医師セミナー」が人気だ。研修医や医療従事者を対象とした事前登録のイベントで、全国100カ所以上のサテライト会場に毎回ライブ配信しているという。

 サテライト会場のセッティングは、MRの重要な仕事の一つである。ファイザーのMRは、持参したPCとWi-Fi WALKER、プロジェクターなどを使ってセミナーをライブ配信する。このほか、会議用スピーカーフォン(パナソニック)を使って、サテライト会場の参加者も質疑応答に参加できるようにしている。ファイザーのモバイルインフラは、社員が使うだけでなく、顧客にサービスを提供するためのものでもあるのだ。

写真●「セミナーのライブ配信ができなければMRは仕事にならない」と話す海老原肇氏
写真●「セミナーのライブ配信ができなければMRは仕事にならない」と話す海老原肇氏

 こうしたライブ配信は、MRにとってまさに「止まってはいけない」ものだ。「会議室などをお借りしてセミナーのライブ配信をしている最中に、通信ができなくなったり、電池切れになったりしたら…。もう冷や汗どころではすまない。MRとして想像したくない事態」。MR経験もある海老原氏はこう話す。

 そのために浮上した必須要件が「電池の持ち」だった。今回、ファイザーにiPhone 5SとWi-Fi WALKER、サポート体制などを提供したのはKDDIだが、同社はWi-Fi WALKERの連続稼働時間について事前検証を実地している。「フル充電した状態なら、ずっと通信し続けていても10時間程度持つという検証結果から、十分実用に耐えると判断した」と岡崎氏は語る。