中小企業の経営者の多くが、人手不足、人材不足、新卒学生を採用できない、いい人が来ないと嘆きます。景気が上向いても利益増大につながらないのです。
少子化、団塊世代の退職による人材流出を受け、まさしく中小企業の大きな課題は人材にあることは間違いありません。新しい経営戦略の立案・実施に、知恵ある人材が不可欠だからです。しかし、ハローワークに求人を出しても求める人物に出会えず、ミスマッチばかりです。
中小企業では、来ない人を探すより、まずは現在の社員の働きやすさ、働きがいを高め、より効率的な仕事ができるよう環境を整備することに着手すべきかもしれません。回り道に見えてそれが近道です。そこに最新のITが活用できるからです。
1.働きやすい、働きがいのある職場づくりを目指して
内閣官房に設置された高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)は2013年6月、「個々人の事情や仕事の内容に応じて、クラウドなどの IT サービスを活用し、外出先や自宅、さらには山間地域等を含む遠隔地など、場所にとらわれない就業を可能とし、多様で柔軟な働き方が選択できる社会を実現するとともに、テレワーク社会を推進する」(世界最先端IT国家創造宣言)と提唱しました。個人の事情に応じて働き方を選択できる環境をつくっていこうという動きです。
「働きやすいと感じている従業員が多いほど、会社の業績は高い」(厚生労働省「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書」、2014年)と言われます。働きやすいと感じる従業員は前向きに働き続けるため、生産性が向上することは明らかです。
それを受けて、厚生労働省はテレワークに取り組む中小企業に対して、機器購入経費やクラウドサービス使用料などの一部を助成する、「職場意識改善助成金(テレワークコース)制度」を新設しました。
経営者は、社員に働きやすい職場だと心から思ってもらえるような会社にしなければなりません。ブラック企業だと思われれば、一時的に業績がよくても社員は離れていきます。
近年、育児、親の介護などの家庭生活、個人の趣味や自己啓発等を大事にしながら仕事上の責任を果たし、生産性向上につなげる働き方、つまりワーク・ライフ・バランスが重視されるようになりました。
例えば出産、育児などは多くの夫婦にとって大きなライフイベントになります。こうした期間であっても在宅勤務などの形で働き続けることができれば、意欲ある人材が活躍できます。また、企業にとっても戦力を失わずに済むというメリットは大きいでしょう。
小学校入学前の乳幼児がいれば、子供と過ごす時間を多く持てるよう在宅勤務を中心にし、しだいに在宅勤務とオフィス勤務を並行する。子どもが急病になったら、在宅勤務に切り替えられる。こうした勤務環境が働きやすさにつながります。
これは育児中の夫婦だけに限りません。40~50代の中核社員が親の介護を理由に突然、離職してしまうケースが増えています。何百万人といわれる介護離職予備軍は、会社においても重要な仕事をしている人材であり、突然の離職は会社の業務を止めてしまいます。離職を嘆くより、その可能性を早くから把握し、社員と話し合っておくことが、最大の対策なのです。
ここでも要介護状態に応じて、在宅勤務中心、在宅勤務とオフィス勤務並行など多様な働き方を選択できるようにすれば、社員は離職せずに済みます。そのために日ごろから、テレワークでの仕事になじんでおくべきです。
このような職場の様子がWebサイトやSNSなどで知られるようになると、求める人材が来る確率が高まります。多様な働き方、多様な給与体系、テレワークが可能な働きやすいIT仕事環境づくりは、中小企業だからこそ、重要な経営戦略なのです。