ネットワークは“ネットワーク屋”の領域――そう考えているシステム部員やアプリケーション開発者は少なくないだろう。この常識が大きく変わろうとしている。なぜなら今、アプリケーションが稼働するプラットフォームとして、スイッチに注目が集まり始めているからだ。様々なセンサーやデバイスが情報を大量発信するIoT(Internet of Things)においては、スイッチがITインフラの主役になる可能性すら出てきた。

 ネットワーク機器最大手の米シスコシステムズは2014年春、「フォグコンピューティング」の名の下、“これまでにない”スイッチの販売を開始した。シスコのほか、米アリスタネットワークス、米デル、ベンチャー企業の米プロリバスネットワークスなどが、同様のスイッチの販売を始めている。

 “これまでにない”スイッチとは、「業務アプリケーションが稼働するネットワークスイッチ」である。そのメリットは何か。三つのシナリオで説明しよう(図1)。

図1●スイッチでアプリケーションを実行するシナリオ
図1●スイッチでアプリケーションを実行するシナリオ
ビッグデータを「エッジ」で処理
[画像のクリックで拡大表示]

 一つめは、様々なセンサーから集まるデータをスイッチ上で処理するというシナリオだ。センサーから集まるデータをデータセンターやクラウドに集約するのではなく、ネットワークのエッジ(末端)にあるスイッチで処理し、分析や集計の結果だけサーバーに送る。これまではデータを全てサーバーに集約してそこで処理するというやり方だったので、データを集めるネットワークの性能がボトルネックになることがあった。エッジにあるスイッチでデータを処理し、その結果だけサーバーに送るようにすることで、通信帯域を節約できるようになる。

 二つめは、外部から入ってきた情報に基づいて判断したり行動したりするようなアプリケーションを、スイッチで処理するというシナリオだ。例えば米国のある金融機関は、HFT(超高頻度取引)において株式注文などを行うアプリケーションをアリスタのスイッチ上で稼働させている。HFTでは金融市場から入ってくるマーケット情報をマイクロ秒(百万分の1秒)単位で分析し、1秒の間に何千、何万回も株式を売買する。HFTアプリケーションをサーバーではなくスイッチで実行すれば、サーバーとスイッチとの間の通信時間を削減可能であり、サーバーを使うよりも株式の売買を高速化できる。

 三つめは、サーバー側で使っている運用管理ツールをスイッチにもインストールし、サーバーとスイッチを同じ運用管理ツールから統合管理するというシナリオだ。運用管理の手間を省いたり、運用管理コストを削減したりできるようになる。

ネットワークの世界で大変化が進行中

 現在、スイッチの世界では「サーバー化」と呼ぶべき動きが起きている(図2)。これまでベンダーごとに異なっていたハードやソフトの仕様がオープン化し、様々なメーカーのスイッチでLinuxが利用可能になった。そのためユーザーはアプリケーションをスイッチに自由にインストールできるようになった。

図2●スイッチの世界で進む大変化の概要
図2●スイッチの世界で進む大変化の概要
ハードもソフトもオープン化
[画像のクリックで拡大表示]

 スイッチは、もはや「サーバー」だ。そしてアプリケーションの種類によっては、サーバーよりも「サーバー化したスイッチ」の方が、より高い性能を出せる可能性が出てきた。これは、アプリケーション開発者やユーザー企業にとっては、スイッチがアプリケーションプラットフォームの選択肢として浮上してきたことを意味する。

 また、ネットワーク機器に必要な機能をソフトによって実現したり、様々なネットワーク機器をソフトによって一元管理したりするSDN(Software Defined Network)の動きが進んでおり、SDNにもスイッチのサーバー化が大きく関与している。

 こうしたスイッチの大変化は、今後のITインフラの進化を占う上で欠かせないものだ。順番に解説しよう。

この先は日経クロステック Active会員の登録が必要です

日経クロステック Activeは、IT/製造/建設各分野にかかわる企業向け製品・サービスについて、選択や導入を支援する情報サイトです。製品・サービス情報、導入事例などのコンテンツを多数掲載しています。初めてご覧になる際には、会員登録(無料)をお願いいたします。