日経SYSTEMS編集長の森側 真一
日経SYSTEMS編集長の森側 真一

 「プロジェクト」の特徴の一つは「独自性」。プロジェクトには同じものはなく、マネジメントも過去にうまく行ったやり方が通用するかどうか分からない。だが、プロジェクトマネジャー(PM)の中にも、成功率が高い人と、そうでない人がいる。成功率が高い人はきっと、どんなプロジェクトでも成功に導くための共通的な「何か」を持っているのではないか――。

 日経SYSTEMSでは2016年4月から、「プロジェクト成功/失敗の分かれ道」というインタビュー形式の記事を掲載。ベンダー各社の経験豊富なトップPMに、若手PMに伝えたい言葉として、プロジェクトマネジメントで重要視していることを語ってもらった。

 マネジメントのやり方は千差万別だし、各社のトップPMが重要と考えていることは、それぞれ違うだろう。と見ていたのだが、2016年4月号から2017年1月号までのトップPM10人の話には、共通的な内容が多かった。

 そのキーワードは三つくらいに絞られる。「信頼関係」「現場を見る」「標準化」だ。今回のトップPM8人とも、中規模から大規模プロジェクトの経験が豊富だが、小規模プロジェクトにも当てはまるように感じる。インタビューの内容を抜き出して紹介しよう(肩書きは取材当時のもの)。

いざというときでも問題にならない

 一つめの、「信頼関係」とは、ユーザーや開発メンバーとの信頼関係を指す。一般的にはステークホルダーマネジメントという言葉で語られるものに近い。

 「振り返れば最も重要だったのは、上司、部下、パートナー、顧客に話を聞いてもらえるかどうかだった。そうした関係性を事前に作っておかなければならない」。野村総合研究所の小宮 正哲氏(証券ソリューション事業本部事業企画室 上席アプリケーションエンジニア)は、野村証券のSaaS型証券バックオフィスソリューション「THE STAR」の統括PMを担当した経験からこう語る。急な対応が必要になった時に、一致団結して対応に当たれるかどうかが肝心。そのためにはリスクを見越して前もって相談しておくとか、関係性を築いておくことが重要という。

 TISの佐々木 喜一郎氏(エンタープライズデジタルインテグレーション事業部デジタルインテグレーション企画営業部長)も「ユーザーとの信頼関係があれば、いざというとき対応しやすくなる」と述べる。ある大手通販ECサイトの再構築プロジェクトで、デザイン会社から提示されたHTMLの描画性能に問題があり、大幅な手戻りになる危険性が生じた。至急、納期をリスケするためにユーザー上層部に技術的な説明が必要だったが、「日ごろからの関係が功を奏し、スムーズに調整できた」(佐々木氏)。

 その関係性の築き方は、PM個人や状況によって変わる。例えば、新日鉄住金ソリューションズの貝田 隆明氏(産業・流通ソリューション事業本部 流通・サービスソリューション事業部システムエンジニアリング第三部 部長)は、大手化粧品会社の全社情報検索システムで統括PMを務めた際、「プラットフォームの選択で、あえてリコメンドを出さないことで、互いに一つの目標に向かって問題解決をしていく体制を醸成した。ユーザーがベンダーに選択を任せてしまう形になると、互いに他責になりがち」と語る。

 この際、判断はユーザーに任せたものの、このプラットフォームの選択肢には、ユーザーの経営状況から考え、あえて得意な製品以外を加えた。その理由を、「(ユーザーと)一つの船に乗るためには、まず自らがプロジェクト目標に対して誠実に向き合い、先に船に乗るようにする姿勢が大事」と述べる。