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編集長の眼

建築家が気づいた「貯蓄から投資へ」を阻む壁

原 隆=日経FinTech 2017/09/25 日経FinTech
日経FinTech編集長の原 隆

 一冊の古書を取り寄せた。その本は筆者の両親が生まれるはるか前、西暦で言えば戦前の1933年に発刊された本だ。黄ばんでいて、色あせている。だが、ページをめくるたびに当時の様子がありありと伝わってくる。これだから古書は面白い。

 数多くの銀行建築を手掛けた西村好時氏が執筆した『銀行建築』。第一銀行(現在のみずほ銀行)の本店や支店の写真、平面図が掲載されており、当時の時代背景を読み解ける一冊だ。ぱらぱらと写真のページをめくるだけでも、当時から銀行がどういう位置づけだったかが見て取れる。ギリシア建築を取り入れた荘厳なたたずまいから、金融機関の事業が今も昔も、国の根幹を支える位置づけだったことが分かる。

 そして、面白いのは西村氏が自序で記している建築家としての苦悩だ。

 「本書を編纂するに当たってたまたま大きな障害が起こってきたので出版までに比較的長い時間を要してしまったのは遺憾である。それはちょうど時を同じくして現代社会相の一つとして『銀行ギャング』が横行し始めたことである。いずれの銀行でもこの『ギャング』には少なからず脅かされたので警戒もなかなか厳重を極めている。その際にたとえそれが学術的の発表であっても銀行の内容を暴露するような記事なり図面なりが世の中に公表されるということは、徳義上考えなければならぬことだろう」

 権威的存在である半面、当時からセキュリティを意識しなければならなかったという事実が記されている。学術的価値との狭間で、悩んだのだろう。

 筆者は建築に対して門外漢だ。だが、建築物が業種の特性や時代とともに移り変わる背景を投影しているものが多いことは、なんとなく分かる。そして、往々にしてその業界に対するイメージは、建築やデザインから与えられる印象にひもづいていることが多い。

 印象を覆すような建築物に出会うこともある。難波駅から南海高野線で30分ほど南下したところにある金剛駅。のどかな空気が流れる静かな住宅街が広がっているこの駅で降り立ち線路沿いに2分ほど歩くと、不思議な建物が目に飛び込んでくる。

 固定概念さえなければ別段不思議ではないのかもしれない。これがカフェやレストランだったら、別に驚きはしなかったと思う。だが、この建物は業界中堅の証券会社、内藤証券が2014年に営業を始めた金剛支店だった。

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