日経コンピュータ編集長の大和田 尚孝
日経コンピュータ編集長の大和田 尚孝
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 ソフトバンクグループでヒト型ロボット「Pepper(ペッパー)」を開発・販売するソフトバンクロボティクスが、2017年3月末時点で314億円の債務超過だったことが話題になっている。ソフトバンクの有価証券報告書を基に日本経済新聞が2017年7月12日に報じた。

 Pepperを世に送り出した「生みの親」でもあるソフトバンクグループの孫正義社長は巨額の借金を活用して事業を拡大してきた。親譲りでロボットの「借金王」となったPepper君も巻き返せるか。

 ソフトバンクの2017年3月期の有価証券報告書は、全体で333ページにおよぶ。その12ページに「ソフトバンクロボティクスは債務超過会社であり、2017年3月末時点で債務超過額は314億2000万円です」といった趣旨の記述がある。うっかりすると見逃すぐらいの小さな字だ。ソフトバンクがソフトバンクロボティクスに販売支援及び資金援助をしているとも書いてある。

 売り上げが伸び悩み、開発費を回収しきれていないようだ。ソフトバンクはPepperの販売台数を公開していないが、2017年初めの時点で2万台前後だったもよう。伸び悩んでいると言ってよいだろう。

 2015年6月の発売から数カ月は、予約を受け付けると初日に売り切れる人気が続いた。同年秋には法人向けにも発売。銀行や小売店など導入先は2000社近くに増えた。順調のようだったが、企業向けでは銀行が本店などに数台導入するといった「お試し利用」にとどまる例が多い。

 個人向けでは、料金の高さが普及の妨げになった。本体価格は19万8000円だが、月々の基本料や保険料を含めると総支出は3年間で100万円超。中古の軽自動車並みとも言える。Pepperの展示イベントを取材すると、デモ機を触りながら「欲しいけど高すぎる」とあきらめる人が何人かいた。

 新製品を投入する際は大胆な安値を付け、社会の注目を集めて新規顧客を取り込む戦法が得意なソフトバンクとしては意外だ。ヒト型ロボットの発売では先行していただけに、もっと安くして普及を優先した方が良かったようにも思える。

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希少性をアピールするしかなかった

 なぜそうしなかったのか。理由は量産体制を確保できなかったことにありそうだ。しばらくは月産2000~3000台ほどだったとみられる。発売当初に月々の販売台数を制限していたのは、製造が追いつかなかったからだ。製造は台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に委託している。

 白色で光沢のあるボディー、破損した際に飛び散らないような安全面での工夫、触ったときに手になじむ素材感――。高い要求と品質を満たすために、樹脂部品の高度な加工技術が求められた。スマートフォンのように大量生産するのは難しかった。

 ソフトバンクは希少性を強調する作戦で臨まざるを得なかった。普及が遅れた結果、発売から日がたつにつれて目新しさが消え、伸び悩んだ。

 2017年に入り、挽回に向けて新たな手を打った。1月には全国の小中学校にPepperを無償で貸し出し、プログラミング教育に活用する取り組みを発表。自治体や非営利団体に無償で貸し出す取り組みも始めた。Pepperを簡単に動作させるソフトや対応するアプリを増やして「Pepper経済圏」を広げる方策だ。