日経SYSTEMS編集長の森側 真一
日経SYSTEMS編集長の森側 真一

 「もはやプロジェクトマネジメントの専任者はチームに必要ない」――。楽天で新規事業開発を指導する川口 恭伸氏はこう断言する。これはプロジェクトチームの在り方の変化が影響している。

 従来のシステム構築の常識であれば、例えば、ユーザー、ベンダー、下請けの開発会社といった三つの会社以上でプロジェクトを進める。そのメンバー全体は、ユーザー側のプロジェクトオーナーやプロジェクトマネジャー(PM)、ベンダー側のPM、アプリケーション担当のSE、インフラ担当のSE、その他開発メンバーなどが数人といった布陣で、最小でも十数人が携わる。関係者間の連絡には、進捗会議などの場を設ける。

 しかし、「SoE(System of Engagement)」や「モード2」と呼ばれる、新たなサービスや事業を担うシステムの開発では、チームは3~10人といった少人数で構成するのが一般的になっている。短期にプロトタイプを作り、サービスインまで一気に進めるには、コミュニケーションを劇的に高め、かつ自発的に動けるチームにしていく必要があるからだ。

 こんなチームには、進捗管理やレポートなど単なる“マネジメント”しかやらないリーダーを入れておく余裕はない、というのが冒頭の言葉だ。

ネット企業だから、と言えなくなる

 こうした少人数の開発スタイルは、これまではネット業界で多く見られていた。これからは「ネット企業だから」と切り離して考えられなくなっていくだろう。

 例えば、パイオニアではこの1月にサービスを開始したカーナビの新機能を、リーダーを含め、4人が中心となって開発を進めた。インフラの構築にはクラウドを利用し、その環境の整備はベンダーにアウトソーシングした。少数精鋭で進め、開発スタートから半年程度でサービスを開始している。まだ一部ではあるが、こうした動きがネット企業以外にも広まっていくのは間違いない。

 このパイオニアのプロジェクトにおけるポイントは、PoC(Proof of Concept)の実施、メンバーの技術力育成やモチベーション向上だったという。

 ユーザー企業のPM/リーダーはPMBOKなどに代表されるプロジェクトマネジメントの役割から、また一歩抜け出してきている。チームメンバーの生産性を高めるだけでなく、ユーザーの要求をくみ取って適切な提案にまとめる能力も一層重要になる。ITが高度かつ複雑になった今、事業部門はITで実現してほしいことを直接的に伝えにくい。ユーザーPM/リーダーには事業側の要求をビジネス要件定義に落としてベンダーに伝える力が求められている。