例年、この時期(本稿執筆時の2016年末)には一年を振り返るのが通例だが、2016年はいろいろなギャップや矛盾が表面化した年のように感じている。

 まず、伝統的なカテゴリーとしての通信産業では、2016年は「料金」に議論が終始したように思える。「通信料金が下がらないのはおかしい」という首相官邸から投げ込まれた「内角高めの剛速球」を請けた総務省での検討を経て、携帯電話大手各社は2016年に新たな料金プランを提示した。民間事業の料金水準について政府がこうした指摘をすること自体が、ともすれば競争のルールを歪めかねないという意味で、相当異例の事態だった。

 しかし現実は、低額プランは必ずしもユーザーに選ばれず、反対に大容量プランなど上限値をどんどん拡大(緩和)する競争に入った。それは売り上げの拡大を意味する以上、デフレ経済への懸念が広がる中では珍しいと言えるほど、事業者の業績は拡大基調が続いている。想定と現実、そしてその結果としての業績のそれぞれで「ギャップ」が生じていると言えるだろう。

信頼性への期待も状況は改善されず

 携帯ショップ店頭における契約行為を巡る問題も、2016年は大きくクローズアップされた。以前から水面下でくすぶっていた問題であり、全国携帯電話販売代理店協会も「あんしんショップ認定制度」の導入を進め、消費者保護ルールを強化した改正電気通信事業法も施行された。しかし状況は改善されていない。

 そのため、同法でも指摘されたモニタリングとフォローアップを担うべく、総務省の「消費者保護ルール実施状況のモニタリング定期会合」が2016年秋からスタートした。筆者も構成員として名を連ねているのだが、今後は覆面調査などの実施も含め、強力な取り組みが進むだろう。

 ただ携帯電話の契約は、本人確認の義務化が法律でも定められているように、本来なら高い社会的信頼性が期待されていたはずである。ここでも理想と現実の「ギャップ」が生じている。

 何らかの具体的な課題が顕在化した時、健全な経済社会であれば、その解決は社会を進化させる原動力となる。実際、料金プランや契約に関する問題は、その解決を商品設計にあらかじめ織り込んだような、MVNOによるサービスが一定の評価を得ている。特に2016年登場したLINEモバイルが、契約時に限らずサービス利用中のサポートでもLINEチャットを活用しているのは、単純なアイデアのように見えて、アプリと通信のシームレスなサービスの実現という意味で興味深い。