改めて6月に改定された「世界最先端IT国家創造宣言」(いわゆるIT戦略)を読み直している。

 第二次安倍政権樹立後、2年前の閣議決定から毎年改定されているが、残念ながら、今年はあまり話題にならなかった。発表の少し前に、日本年金機構への標的型攻撃による大規模な情報流出が起きてしまい、その騒動にかき消された格好だ。

 再び2015年版IT戦略を読み返す中で、冒頭に書かれている「真の豊かさの実現」という言葉に込められた意味の重大さを、ひしひしと感じている。

「安全・安心・公正」を明示

 筆者自身、政府の仕事も時折手伝うことがあるので、IT戦略は常に意識している。また、年によっては作成過程で関係者の議論の相手を務めることもある。そのため、多少は背景が分かっているつもりだが、正直「真の豊かさの実現」というテーマは「青臭い話なのかな」と思った。

 しかし注意深く読んでいくと、単に理念を掲げているだけでなく、その構成要素として「安全・安心・公正」と示している。「豊かさ」という多義的で意見の割れそうな設題を、政府が「安全・安心・公正」に置き換え、明示的に言及したのはなかなか画期的だ。

 そしてこの「安全・安心・公正」が、これからの重要なキーワードになりつつある。前述の日本年金機構だけでなく、様々な機関に対するサイバー攻撃は日々発生している。個人情報や機密データの漏洩についても同様だ。こうしたインシデントを目の当たりにすると、確かに「安全・安心」の担保は、「豊かさ」の必要条件であることが痛感される。