今春、「64(ロクヨン)」というテレビドラマがNHKで放映された。横山秀夫原作による、地方の警察内部を舞台としたシリアスな人間ドラマで、テクノユニット「電気グルーヴ」のメンバーであるピエール瀧が主演ということでも話題になった。

 筆者は以前から電気グルーヴも横山秀夫も好きだったので、どんな出来栄えか、楽しみにしていた。ただ全5回を見終わって、期待していたピエール瀧の演技には不満が残った。正確に言えば、大柄の中年男という身体的な特徴を生かした役柄にはふさわしい演技だった。課題はただ一つ。ものすごく滑舌が悪く、正直何を喋っているのか、よく聞き取れなかった。

 当初は筆者の耳や受像器のせいか、とも思った。しかしネットで評判を見る限り、似たような印象を抱いた人は少なくないようだ。舞台演劇出身の実力者を配した俳優陣と比較されるのも、彼にとっては不利だったのかもしれない。しかし、とにかく残念だった。

フルHD化で「一声」の不足が強調

 ただこれは、テレビというメディアの視聴環境の変化も大きく影響しているのではないか。来る4K時代を見据えると、映像の制作手法もテクノロジーの進展とともに変わる必要がある。

 20世紀前半、長編ドラマといえば映画の時代だった。映画の視聴環境は、映画館での大スクリーンと、迫力のある音声に特徴がある。その場合、演技に求められるのは、「男はつらいよ」に代表されるような滑舌の良さであり、身体全体を使った正確な表現だった。