現地時間の2017年1月20日、ドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任した。単なる政権交代ではなく、「あのトランプ氏が…」という驚愕を伴った印象を世界中の人が感じているだろう。

 当選直後、安倍晋三首相や孫正義ソフトバンクグループ社長の機敏なアプローチもあり、日本では「案外、大丈夫ではないか」と考える向きもあった。しかし年明け早々、トヨタ自動車のメキシコ新工場に対し、トランプ氏から痛烈な批判が展開され、その直後の記者会見では貿易不均衡の相手として日本が名指しされた。当面は落ち着かない日々が続くことを覚悟しなければならない。

 筆者の関心は、やはり情報通信分野の政策にどのような影響が及ぶのか、という点にある。米国はFCC(連邦通信委員会)などの主要人事が政治任用で決められる。「政権交代は政策交代そのもの」と言えるのだ。

 しかし今回は、いつにもまして状況が不透明だ。なにしろトランプ氏自身は、当該分野に関連した政策を明らかにしていない。従って現時点ではいくつかの手がかりに基づく推測しかできないが、簡単に整理してみたい。

「雇用が第一」が基本スタンス

 まずトランプ氏は、基本的な政治スタンスとして、「雇用が第一」を一貫して訴えている。そこから基本的な政治姿勢として考えられるのが、(1)大きな政府の指向、(2)大きな雇用を抱える伝統的な大企業の優遇、(3)孤立主義(国際関係への無関心)─である。

 一方、米国社会の抱える制約として、(1)政府部門の財政悪化、(2)税負担の不公平を含めた再分配機構の不全、(3)経済社会の様々な局面における外国への依存、などが挙げられる。

 両方を並べてみると、トランプ政権は、そもそも現実と政治姿勢の間に大きな矛盾を抱えていることが分かる。だとすると、その矛盾を(少なくとも表面上)解消するための矛先がどこへどのように向かうのかが、政策の主要な論点となる。

 まずは旗印である雇用の維持・拡大に貢献する事業者に有利な政策が優先されるだろう。通信業界に当てはめれば「OTT(Over The Top)事業者よりも大きな雇用を生み出す、通信事業者を優先」という順位となる。

 ネット中立性に関する政策を例に挙げれば、従来とは異なり、通信事業者が有利になりそうだ。FCCから反対されていた通信事業者によるゼロレーティングも促進されるかもしれない。