2016年の通信市場は、安倍首相の指示を受けて総務省が取り組んだ携帯料金問題の余波が1年にわたって続いた年だった。2016年春の「実質0円」販売を規制するガイドラインの適用と相次ぐ行政指導、総務省の要請に基づいて携帯電話大手3社が打ち出したライトユーザー向けプランや長期優遇策、そして大容量プランの投入といった具合に、目まぐるしく競争環境が変化した。

 2016年5月に施行された改正電気通信事業法とMVNO(仮想移動体通信事業者)の躍進も、2016年の大きなトピックだった。改正電気通信事業法によって強化された消費者保護ルール、今や1500万契約に届くまで成長したMVNOは、2016年を通して多くの話題を提供した。

 そんな中、筆者は2016年の通信市場のもう一つのトピックとして、通信サービスのビジネスモデルの面で、変化の兆しがあった点に注目している。特定のアプリケーションを課金対象から除外する、いわゆる「ゼロレーティング」や、一部のIoT(Internet of Things)向けのサービスで見られるデバイスやモジュールに2年間の通信費を含めるようなビジネスモデルである。

 通信サービスそのものへ月額料金を支払うという従来のビジネスモデルに対し、上記のような新たなビジネスモデルは、アプリケーションやデバイスを主役とし、通信サービスはエンドユーザーから極力見えない存在としている。アプリケーションやデバイスから見て伝送コストとなる通信サービスは、BtoBの枠組みで処理ししている。このような新たなビジネスモデルは、2017年以降、本格化するIoTや第5世代移動通信システム(5G)の時代において、場合によっては通信ビジネスの事業構造の変化につながるのではないかと感じている。

無色透明の通信を用途ごとに色づけ

 ゼロレーティングは、LINEなどのSNSのトラフィックを課金対象としない「カウントフリー」を最大売りに、LINEモバイルが2016年9月にMVNO事業に参入したことから、本格的に国内市場への浸透が始まった。

 海外では米T-モバイルUSなど大手携帯電話事業者の取り組みが有名だ。国内のMVNOでは、カメラのキタムラが2015年6月に開始した自社アプリの利用を非課金とする「写真ホーダイSIM」が先駆け。プラスワン・マーケティングのMVNOサービス「FREETEL SIM」がLINEなどSNSを非課金とするサービスを投入している。ビッグローブも2016年11月から、BIGLOBE SIMにおいて、AbemaTVやYouTubeなど動画を含むトラフィック量をカウントしない「エンタメフリー・オプション」の提供を開始するなど、格安以外の付加価値を求めるMVNOの間で急速に導入が進んでいる。