金沢駅から電車とバスを乗り継いで約1時間。北陸先端科学技術大学院大学に務める、人工知能(AI)研究者の溝口理一郎氏(知識マネジメント領域サービスサイエンス研究センター特任教授)を訪問した。お会いしたのは約6年ぶりだ。

 溝口氏は68歳。同世代の研究者が引退モードになっていくなか、「まだ頭はよく回るし体力もある。あと10年は貢献したい」と笑顔で話す。

北陸先端科学技術大学院大学の溝口理一郎特任教授
北陸先端科学技術大学院大学の溝口理一郎特任教授
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「オントロジー工学」を追究

 溝口氏は第2次ブーム時から日本のAI研究を牽引した研究者の一人で、第五世代コンピュータプロジェクトにも関わった。第11代人工知能学会会長(2006~08年)でもある。

 第2次ブームから活躍しているAI研究者の中でも、溝口氏は孤高の存在との印象が強い。かつてのAIの主流は「もし…ならば~せよ」というルール群を知識として利用するエキスパートシステムだった。同氏の主要研究テーマである「オントロジー工学」は、これらとは一線を画す。

 オントロジーは存在論のこと。オントロジー工学をごく単純化すると、物事の本質を追究して体系化し(概念体系と呼ぶ)、その結果をコンピュータで利用可能にする試みと言える。セマンティックWebなどのメタデータを使った関係付けと区別して、「深いオントロジー」とも呼ぶ。「僕はオントロジー工学では、世界をリードしている自信がある」。溝口氏はきっぱり話す。