「人工知能(AI)のブームはいずれ終わる」。こう話すのは人工知能学会の山田誠二会長だ。

 テレビ、新聞、雑誌。いたるところで連日のようにAIの話題を耳にするようになった。ITベンダーに限った話ではないようだ。業種業態を問わずに、AIを使ったサービスやシステムに関する発表が増えてきた。

人工知能学会の山田誠二会長。国立情報学研究所/総研大の教授を務める
人工知能学会の山田誠二会長。国立情報学研究所/総研大の教授を務める
(写真:陶山 勉)
[画像のクリックで拡大表示]

 現在のAIブームがどのタイミングで始まったかは明確ではないが、2014年ごろから加速し始めたとみられる。「第3次AIブーム」と呼ばれることから分かるように、過去には第2次AIブームが存在した。そしてブームは終わり、「冬の時代」が訪れたのも確かである。

 山田会長自身は、大学院生時代に第2次AIブームを経験したという。AIの研究を志したきっかけにもなっている。「1980年代当時は、現在のブームよりも明らかに盛り上がっていた」(山田会長)。富士通、三菱電機、日立製作所など、ほとんどの大手企業がAIに投資を振り向けていたという。

 「なぜブームが終わるのか」と山田会長に理由を聞いてみると、「あらゆるブームは必ず終わるから」との答えが返ってきた。そもそもブームと呼んでいる時点で、いずれ縮小していくだろう、という指摘だ。企業や生活の現場に浸透していくのであれば「ブームとは言わず、インフラとして残るだろう」(山田会長)。

イノベーションを起こしているのは深層学習

 東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻の松尾豊特任准教授は「ブームになると、何でもかんでもAIというようになってしまう」と指摘する。

 松尾准教授によれば、第3次AIブームを構成しているのは、大きく二つ。まず、深層学習(ディープラーニング)だ。「深層学習を中心に新しいイノベーションを生んでいるのが全体の2割」。そして、残りの8割の領域が従来のITであり、それらをAIと呼んでいるのだという。

 ただ松尾准教授は従来のITをAIと呼ぶこと自体を否定しているわけではない。「AIと呼ぶのは擬人化の一種で、理解しやすくなる。悪いことではない」。しかし、その擬人化が過度になってしまうと、できることとできないことが区別できなくなってしまうという。「ブームが加熱しすぎて、もしも期待と実力が釣り合わなくなると危なくなる」(松尾准教授)。