日本航空(JAL)が好調だ。2016年4~9月中間期は純損益ベースで最高益を記録。2016年3月期の通期予想も、期初に1720億円としていた営業利益を2040億円に上方修正した。過去最高だった2012年3月期の2049億円に迫り、営業利益率も15.1%と高水準を見込む(図1)。

図1●JALの連結業績。再生後は破綻前より売上高こそ減ったものの、安定して高い利益率を確保している(2009~10年度は破綻に伴い変則決算)
図1●JALの連結業績。再生後は破綻前より売上高こそ減ったものの、安定して高い利益率を確保している(2009~10年度は破綻に伴い変則決算)
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 2010年1月の経営破綻からわずか6年。JALはなぜ短期間で再建・再上場を果たし、かつこれほどの高収益企業に生まれ変われたのか。記者はそんな問題意識を持ちながら取材を重ね、2015年12月29日に発売した『日経情報ストラテジー』2016年2月号で特集「JAL アメーバとITで『全員経営』」としてまとめた。

 詳細は同誌をご覧いただくとして、本稿では特集であまり触れなかった視点で1つ指摘しておきたい。同社で開催される社内研修が、驚くほどの頻度と内容の濃さである点だ。

2時間×年4回の研修で経営哲学を浸透

 「しっかりと対象物に向けて注意を払い確認する『有意注意』に対し、ついぼんやりと注意力が散漫な状態で確認作業などをしてしまうのが『無意注意』。皆さんは業務中『無意注意』で失敗したことはないでしょうか。向かいの人と経験談と解決策を話し合ってみましょう」。進行役のファシリテーターが促すと、研修室に集まった運航、整備、客室、空港など各部門の40人ほどの社員が熱心に議論し始めた。

写真1●経営哲学「JALフィロソフィ」の研修風景。日常の業務では顔を合わせない、さまざまな部門の社員たちが活発に議論を交わす
写真1●経営哲学「JALフィロソフィ」の研修風景。日常の業務では顔を合わせない、さまざまな部門の社員たちが活発に議論を交わす
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 10月上旬、東京・羽田空港の一角にあるJALの研修施設では、同社社員の行動哲学をまとめた「JALフィロソフィ」を学ぶ研修が行われていた。驚くべきはその頻度。グループ全社員3万2000人と、外部委託している地方空港の職員などの全員が、1回2時間の研修を年4回受けることが義務づけられている(写真1)。

 テーマは毎回変わり、「人間として何が正しいかで判断する」「常に明るく前向きに」「公明正大に利益を追求する」「最高のバトンタッチ」などフィロソフィの項目の1つを2時間かけて深耕する。現場での取り組み、稲盛和夫名誉顧問の講演、植木義晴社長のコメントといった映像のほか、2人1組のディスカッション、教材の黙読、演習シートへの記入など内容も盛りだくさんだ。ファシリテーター1人に対し参加者40~50人と小規模ということもあり、うたた寝や内職、中抜けなど到底できる雰囲気ではない。

小学校みたい。でも、できてない

 なぜそんなに徹底的に研修をするのか。そこまで必要なのか。「フィロソフィ教育を始めた2011年当初、社員の大半は疑問を持っていたはずだ。なぜこんな当たり前のことをやるのか、小学校の道徳の授業のようなことを大の大人がやるのか、と」。フィロソフィ教育の運営を取り仕切る人財本部 意識改革・人づくり推進部の野村直史部長はこう明かす。