記者がクラウドを本格的に追いかけ始めて丸10年が経過した。コンピュータをサービスとして提供するというクラウドのビジネスモデルは不変だが、その中身は様変わりした。「汎用」から「専用」へと大転換したクラウド技術の10年間を振り返ってみよう。

 クラウドコンピューティングという概念が世界的に流行し始めたのは、今から11年前のことだった。2006年11月、英国の経済誌「The Economist」が発行する別冊「The World in 2007」に米GoogleのEric Schmidt CEO(最高経営責任者、当時)が「Don’t bet against the internet」というコラムを寄稿し、「私たちは『クラウドコンピューティング』の時代に入ろうとしている」と主張。経営層への影響力の大きい同誌が取り上げたことから、クラウドは一気にIT業界の流行語になった。

 記者がクラウドを本格的に追いかけ始めたのは、それから1年後の2007年11月。米MicrosoftのSteve Ballmer CEO(当時)が東京で講演し、「10年以内に社内で運用されるサーバーは無くなる」と宣言したことがきっかけだった。当時の記者は「Windows Server」を中心とするMicrosoft製品の専門記者で、システム管理者向けに運用管理の記事を書いていた。その仕事もクラウドによってなくなりそうだと考え「クラウド記者」に転身した。

 そしてこの10年間で、クラウドは大きな変貌を遂げた。

10年前は「専用」から「汎用」

 10年前。Googleや米Amazon Web Services(AWS)が開発したクラウドの内部は、米Intelの「Xeon」プロセッサを搭載する汎用サーバーと、クラウド事業者が開発したソフトウエアだけで成り立っており、それは当時、極めて斬新なやり方だった。

 2000年代前半、Xeon搭載サーバーは「ローエンド」や「ミドルレンジ」の位置付けに限定されており、大規模なデータベース(DB)を稼働する「ハイエンド」のサーバーには、Intelの「Itanium」や米IBMの「POWER」、米Sun Microsystems(当時)の「SPARC」といったプロセッサを使うのが当たり前だった。

 データは専用のストレージ装置に保存するのが当たり前。そうした装置にはストレージメーカーが独自に開発したASIC(特定用途向けIC)が搭載されていた。スイッチなどのネットワーク機器にも、機器メーカーが独自開発したASICが搭載されていた。「クラウド以前」の時代には、サーバーやストレージ、ネットワーク機器のメーカーがそれぞれ開発した独自プロセッサやASICが幅をきかせていた。

 それに対してGoogleやAWSが開発したクラウドの内部には、メーカー独自プロセッサを搭載するハイエンドサーバーや、メーカー製ストレージ装置は存在していなかった。単体のサーバーでは扱えないような大容量のデータや大量のトランザクションも、分散処理ソフトウエアを自社開発することで、汎用サーバーだけで処理していた。

 ネットワーク機器も、メーカー製ASICを搭載する製品ではなく、米Broadcomのような半導体メーカーが開発した誰でも購入できる「Merchant Silicon(市販半導体)」を搭載する製品を使用。Merchant Siliconに足りない機能があれば、サーバー側のソフトウエアで補った。

 つまり専用ハードウエアが担っていたワークロードを、「汎用ハードウエアとソフトウエアの組み合わせ」によって置き換えてしまったのが、当時のクラウドだった。

 2010年代に入ると、クラウドで生まれた手法は「Apache Hadoop」や「Apache Spark」といったオープンソースソフトウエア(OSS)や、「Software Defined Network(SDN、ソフトウエア定義ネットワーク)」「Software Defined Storage(SDS、ソフトウエア定義ストレージ)」などに分類される商用ソフトウエアを通じて、一般の企業にも浸透していった。10年前は極めて斬新だったクラウドの技術は、今やITの世界の常識になった。

現在は「汎用」から「専用」へ

 しかし近年、クラウドの技術が180度転換し始めている。AWSやGoogleがこれまで汎用ハードウエアとソフトウエアに担わせてきたクラウドのワークロードを、専用ハードウエアに移しているのだ。