かつて「日経AI」という専門誌があった。その名の通り、AI(人工知能)を中心とする先端技術や製品、利用動向を扱ったメディアで、創刊は“以前の”AIブームの最中である1986年。のちに「日経インテリジェントシステム」へと名称を変えて、1994年まで続いた。ちょうど20年前の話だ。

 筆者は1989年から1994年まで、この日経AI(日経インテリジェントシステム)に在籍した。まさにAI普及の曲がり角から一段落するまでの過程に付き合ったことになる。

日経AI
日経AI
広告のないニューズレター形式の「日経AI」と、季刊雑誌の「日経AI別冊」があった。写真は日経AI別冊
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 いま振り返っても、この時期は筆者にとって最も楽しく、実りのあった時代だと感じる。当時のAI応用の代表例であるエキスパートシステムからニューラルネットワーク、ファジィ、カオスのような非線形技術、さらにハイパーメディアやオブジェクト指向データベース、知的CASE(コンピュータ支援によるソフトウエアエンジニアリング)といった先端ソフトウエア技術まで、幅広く刺激的な経験を積むことができた。

 長くITに携わっている方ならご存知のように、AIは1990年代に入ると話題に上ることが少なくなった。各企業が利用していたAIシステムが急に使われなくなったわけではないが、少なくとも表舞台からは消えていった。IT大手ベンダーが出していたAIツール(エキスパートシステム構築ツール)は「オブジェクト指向開発ツール」に衣替えして、多くはフェードアウトした。

 それからしばらくの間、AIという言葉が注目を集める機会はほとんど無くなった。AIが脚光を浴びる時代は当分来ないだろう。筆者はこう思っていた。

20年前に比べ、AIの“実力”は雲泥の差

 ところが筆者の予想と異なり、20年を経てAIは再びブームと言える様相を呈している。何しろIBMやグーグル、マイクロソフト、フェイスブック、バイドゥ(百度)といった米中の大手IT企業が、こぞってAI関連の研究・開発に多額を投じているのだ。注目度合いだけでなく、その“実力”も20年前のAIの比ではない。