「なんで今年はVR(仮想現実)元年なのだろう?」──。2016年秋、記者の頭にこんな疑問が浮かんだ。ちょうどVRのビジネス適用をテーマに取材を始めたときのことだ。VRとは、CGや360度映像などのコンテンツを、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)などと組み合わせることで、その世界に入り込む感覚をもたらす技術である。

 VR元年と呼ばれているのは、今年に入って様々なメーカーがVR向けHMDを相次ぎ市場へ投入したことが大きい。

HMDの一つである韓国サムスン電子のGalaxy Gear VR。Galaxyのスマートフォンを装着して使う。大林組への取材時に撮影した
HMDの一つである韓国サムスン電子のGalaxy Gear VR。Galaxyのスマートフォンを装着して使う。大林組への取材時に撮影した

 韓国サムスン電子の「Galaxy Gear VR」が2015年12月、販売開始に。2016年に入ってからは、米Oculus VRの「Oculus Rift」、台湾HTCの「HTC Vive」、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の「PlayStation VR(PS VR)」と、HMDの新製品が続々と登場した。

 そういったメーカーの動きと、VRへの関心度の高まりを受けて、記者は、ビジネスに適用し始めている企業を取材し始めた。

 取材では、VRにとどまらず、スマートグラス上の景色に、CGをはじめとするコンピュータ上のデータを重ね合わせる技術「AR(拡張現実)」や、コンピュータで作り出した3次元CGの空間に、HMDをかぶった人の手など現実のものを重ね合わせる「MR(複合現実)」といった関連技術も対象に含めた。

問題は「VR酔い」にあった

 冒頭の疑問に戻ろう。VR元年と呼ばれるのは、メーカーがVR向けHMDの発売が相次いだことが大きい。ならば、なぜそのタイミングがこの2016年だったのか。それが気になった。