「インターネット業界にはディスラプター(破壊者)という言葉がある。我々はディスラプターになりたいわけではなく、選択肢を増やしたい」(ヤフーの宮坂学社長)、「新規ビジネスに参入する際の目的は既存業界の破壊ではなく、利用者の新たな体験や需要、生活スタイルを創出することだ」(グリーの田中良和社長)。去る2015年11月5日、日本のインターネット業界大手2社のトップは、期せずして同様な発言をした。

 両トップの発言は、不動産分野の新サービス発表会でのもの。発言の念頭にあったのは、破壊的と形容されることのある新興企業のネットサービスの存在だ。空き部屋の貸し借りを仲介する米エアビーアンドビー、自動車「ドライバー」と利用者をインターネットでマッチングする米ウーバーテクノロジーズが代表例である。

 両社はそれぞれ、旅館業界とタクシー業界という既存業界に、それまでと異なるビジネスモデルで参入した。ともに設立から10年に満たない新興企業だが、今では事業を世界規模で展開。非上場ながら、時価総額は数兆円とも言われる。このことをもって、両社をデジタル技術を活用したディスラプター(破壊者)の代名詞に挙げられることが多い。

 ウーバー症候群(Uberization)――。同社の「破壊力」の大きさを象徴する言葉だ。門外漢の新興企業であるウーバーは、全く新しい考え方で自動車の配車サービスに参入し、競争のルールを変えてしまった。このことを指して、従来は想像もしなかった競合が参入し、既存の業界を破壊することを表した言葉という(関連記事:経営層は“ウーバライゼーション”に強い関心、米IBMが調査)。

 破壊と言われるだけあって、既存業界との摩擦やトラブルの話題には事欠かない。ウーバーはドライバーによる集団訴訟、Airbnbは個人を装うホテル事業者の存在や、米ニューヨーク州との係争などがある。

 ヤフー宮坂社長とグリー田中社長が強調したのが、既存業界との共存共栄を目指す姿勢だ。ヤフーが同日に発表したのは、不動産会社を介さずマンションを売買できるサービス。ソニー不動産と共同開発した。 機械学習によるマンションの価格推定機能などのITを活用して売却手数料を無料にした、不動産取引の常識に反するサービスだ。グリーも住宅探しやリフォームの情報をマッチングするサイトを開設した。住宅メーカーや建築施工事業者、インテリア企業、デザインなど、500社に上る参加事業者を集めた。

壊すのではなく共存を選ぶ日本企業

 既存業界との軋轢を抱えながらも成長を続けるディスラプターのウーバーやエアビーアンドビー。かたや共存を掲げるヤフーやグリー。こうした対比をみていると、記者にはある疑問がわいた。

 「ウーバーやエアビーアンドビーが日本から生まれる必要はあるか」。