何にでもExcelを使う――。多くの企業でよく見かける悪弊だ。Excelは何でもできる便利なソフトだが、何にでも使うのが正しいわけではない。IT業界では「Excel方眼紙」の是非が頻繁に話題になっている。

 デジタルマーケティング部門では「様々なツールが表示する数字をExcelに転記して、整形してレポートを作成する」といった業務がある。ステークホルダーごとに知りたいことが違うため、作り分けも必要だ。「レポートの作成にはうんざりするくらい時間が掛かる。現場の運用はほとんど破綻している」。ベテランのマーケィング担当者はこうため息を漏らす。

 転記元となるツールはGoogleアナリティクスやGoogleアドワーズ、SNSや動画サイトの管理画面、Salesforce.comの管理画面などだ。個々のツールは見た目がきれいで、賢い機能を搭載している。しかし、その機能を使えるのは各ツールの管理対象だけ。結局、マーケティング担当者はきれいな画面を見ながら、Excelを使って手作業で集計する羽目になる。不毛な作業で現場は消耗するし、長時間残業の原因になる。

 非効率と認識しつつも、Excelを使った業務は長く続いた。代替ツールが見当たらなかったからだ。専用のシステムを整備してBIツールを導入する方法もあるが、導入コストと運用の手間がネックになった。

新型のクラウドBIツールが台頭

 ところが最近、新型のクラウドBIツールが登場。日本航空、全日本空輸、野村不動産、DeNA、電通、博報堂、サイバーエージェントなど大手企業で導入が相次いでいる。新型のクラウドBIツールは、DWH(データウエアハウス)、データのETL(抽出、加工、転送)、可視化、統計解析をクラウドでまとめて提供する。デジタルマーケティング分野では、米ドーモの「Domo」や米デートラマの「Datorama」が実績を増やしている。

 例えば、Domoはデータソースへの接続と変換を担う約500種類の「コネクター」を搭載する。GoogleアナリティクスやSNSの管理画面などに接続して、データを取り込んでDomoのクラウド上にあるDWHに格納する機能だ。Datoramaも同様の機能を持つ。レポート作成業務のうち転記作業を自動化する格好だ。

 DWHに格納したデータに対して、分析してグラフや表で可視化できる。新型のクラウドBIツールはあらかじめ決めた分析軸を、KPI(重要業績評価指標)として管理できる。ユーザーが見るダッシュボードには任意のKPIを並べて表示する。これにより、ステークホルダーごとにレポートを作り分ける作業を自動化した。

 料金体系も過去のBIツールにあまりない仕組みだ。「ユーザー数に応じた料金体系にしている。データ量やクエリー数に依存しないので、想定外のコストが発生しない」(ドーモの奥野和弘ソリューションコンサルティング部部長)。

「Excelでもできる」のワナ

 マーケティング担当者が日常的に使うツールの数は90近い。しかも、デジタル広告ではリアルタイムに結果の数字が出てくる。手作業がネックになり、デジタルが持つ力を生かし切れないという問題意識が強かった。電通で起こった過労自殺をきっかけに、働き方改革の機運も高まっていた。

 そこに、既存の問題解決にぴたりと当てはまるツールが出てきて、脱Excelが急速に進んでいる状況だ。こうした動きは今後の象徴になりそうだ。別にクラウドBIツールを持ち上げるわけではない。分野によってはRPA(ロボティックプロセスオートメーション)ツールが向くだろう。

 何にでもExcelを使っている現場と、その作業を自動化した現場では生産性に大差が付く。非効率の温床となるExcel手作業の自動化は業務効率化の一里塚だ。

 ワナは「Excelでもできる」という考えだろう。使い慣れたツールの利用は一見すると効率的だ。しかし、本当にExcel向きの作業かどうか真剣に検討した現場は多くないだろう。ズルズルと取り扱うデータ量が増えたり、作業者が減ったりするうちに、“ゆでガエル”のように業務が破綻に向かうかもしれない。