米大統領選が大方の予想を覆す結果になったことで国内外が騒がしかった2016年11月18日、一つの法律がさして注目を集めることもなく、与党の賛成多数により参議院で可決・成立した。「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律等の一部を改正する法律」である。

 これにより、安倍晋三首相が2016年5月の伊勢志摩サミット直後に表明した消費増税の再延期方針が法律のうえでも確定した。法律の名称に「改正」の文字が2回も出てきて長ったらしいのは、消費増税延期が今回で2回目だからである。

 法改正により、消費税率は2年10カ月後の2019年10月1日に、現行の8%から10%へと引き上げられる。同時に、飲食料品などの税率を8%に据え置く「軽減税率制度」が導入される。

 消費税の税率はこれまで3%、5%、8%と引き上げられてきたが、品目で税率が変わるようなことは無かった。2019年10月の消費増税で初めて、8%と10%という複数の税率が混在する状況になる。

 商品やサービスに広く薄く課税する消費税は、消費者はもちろん、企業にも広範な影響が及ぶ。新たに2通りの税率が混在することによる企業のビジネスやシステムへの影響は、決して小さくない。法改正前のスケジュールであった2017年4月に増税を実施することになっていたら、今ごろ日本中の企業が軽減税率への対応に追われて大混乱に陥っていたかもしれない。

 導入まで3年弱の猶予ができたとはいえ、直前になって慌てても間に合わない。今から軽減税率制度への理解を深め、自社ではどのような対応が必要になるのか、確認を進めていく必要がある。企業での対応に参考になるであろう象徴的で分かりやすいポイントをまとめた。

飲食料品を扱わない企業には軽減税率は関係ない?

 軽減税率は、基本的には飲食料品に適用される。飲食料品を扱うスーパーなどの食料品店や、レストラン、ファストフードなどの飲食店に影響が及ぶのは誰でも想像がつくだろう。だが、影響はこれにとどまらない。

 まず、消費税は、消費者との取引だけでなく、企業間の取引にも課税される。つまり、飲食料品を生産する農業や漁業、加工食品の製造業などの生産者にも軽減税率は直接的に関わってくる。飲食料品の生産者と小売業とをつなぐ卸売業も同様だ。

 さらに、飲食料品を商材としては扱わない企業も、軽減税率と無縁ではいられない。ほとんどの企業では、会議用の弁当、来客用の茶菓子、贈答用の食品詰め合わせセットなどを経費として購入するからである。社員食堂があれば食材の仕入れでも経費処理が必要になる。

 結局、すべての企業が、少なくとも経理・税務申告の際には軽減税率に向き合わなければならない。