かつては「小売りの王者」だった百貨店だが、近年は存在感を失い、客離れが進んでいる。そんな百貨店業界で「別格」とされるのが伊勢丹新宿本店。2014年3月期の売上高は2654億5100万円。国内の百貨店ではダントツの1位というだけではなく、世界一とも目される。流行に敏感な「ファッショニスタ」たちが足しげく通い、週末ともなると開店前から列を作り、開店と同時になだれ込んでいく光景が見られる。

 これほどまでに客を引き付ける「吸引力」は、どこから生まれるのか。よく知られていることは、バイヤーの目利き力を鍛え、取引先と強い関係を築き上げることで、売れ筋の商品が集まる構造を作り上げてきたことである。だが、吸引力を生み出す要素はもう1つある。「データ分析力」だ。

 伊勢丹新宿本店をはじめ、三越伊勢丹グループでは、商品や顧客の情報を詳細に分析できるシステムを早くから導入し、全社員がデータ分析を実践する経営スタイルを浸透させてきた。日経情報ストラテジー1月号(11月29日発行)では、特集「三越伊勢丹の全員分析経営」でその実態を明らかにしている。

 全員分析経営の象徴として、伊勢丹新宿本店の月曜の朝礼を紹介しよう。舞台は2階の婦人服売り場のほぼ中央に位置する「URBAN CLOSET(アーバンクローゼット)」。子供を持つ主婦を主要な顧客層とし、人気の女性ファッション誌「VERY(ヴェリィ)」でもたびたび取り上げられている人気の売り場だ。

写真●伊勢丹新宿本店2階の婦人服売り場「URBAN CLOSET(アーバンクローゼット)」での朝礼の様子
写真●伊勢丹新宿本店2階の婦人服売り場「URBAN CLOSET(アーバンクローゼット)」での朝礼の様子
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 朝10時15分。売り場の中央スペースに販売員が集まってきた。朝礼は毎日実施されるが、なかでも月曜は1週間の販売戦略を打ち出す最も重要な日だ。

 「それでは朝礼を始めます」。売り場を取り仕切る佐藤文建アシスタントセールスマネージャーは、開店までのわずか15分の間に、前週の実績と今週の販売方針を的確に伝えていく。